その光景の最初のページ
文・大鶴義丹
この海岸線の風景を見るたびに、この風景の中に初めて溶け込んだ日のことを思い出さずにはいられない。
高校生のときに、当時つき合っていたガールフレンドと初めて乗った江ノ電。その車窓に次から次へと飛び込んでくる初夏の風景に、二人は言葉をなくして、互いの手を強く握った。
目の前が海岸線の駅で降りて、砂浜に座って、真っ直ぐに海を見つめながら、暗くなるまでいた。
あんなに長い時間、真っ直ぐ海だけを見ていたのはそれが初めで最後だった。
高校を卒業すると同時に会う機会も減り、いつの間にかそれぞれの流れに、サヨナラも言わずに別れてしまった僕たち。
今振り返ると、幼過ぎたことばかり思い出す。結局、互いの何かを本当に理解することもできなかったのかもしれない。
ただ、互いに真っ直ぐな気持ちで、同じ時間を過ごしたということは決して無意味じゃないはず。
去年高校のクラス会で、その彼女が今は日系アメリカ人の方と結婚して、ハワイのオワフ島に住んでいるという噂を聞いた。もしかするとこの海の先にあるビーチを、今この瞬間、家族で楽しそうに歩いているかも知れない。
私の娘も来年には高校生。ひょっとすると来年の夏には、まだ見ぬボーイフレンドと、この風景の中に溶け込む経験をするのかもしれない。
いったいどんな思いで彼女はこの海を見つめるのだろうか。楽しいことだけじゃないだろう、悲しい思いも沢山するはずだ。でも、初めて見るこの風景に感じたことは忘れて欲しくはない。
どんなことが起きても、その季節にだけ持つことのできる真っ直ぐな目で、自分の目の前のモノを見つめて欲しい。
色々なものが物凄いスピードで変化しなら過ぎ去っていく。追いかけようとしても、振り返る間もないくらいの速さだ。
会社に行く前に、古くからの親友のようなこの『アウトランダーローデスト』で10分だけ遠回りをして、この風景の中に入りたくなるのはそんな自分を見失わないため。
この風景を見るたびに、自分の中に、あの頃と全く変わらないモノがあるような思いになる。
決して全てが楽なことばかりじゃない毎日だ。冷たい大人の視線で周りを見回していることもある。痛みを無視して判断をすることも沢山ある。
だけど、この風景の中に溶け込んでいると、あの頃、当たり前のように持っていた、目の前のモノを真っ直ぐに見るということを思い出す。
すると少しだけ目の前の風景の色に「青」が増すような気がする。
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