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特集 終わらせない夏

ストーンズがブルースになった日

文・世良耕太

ストーンズがブルースになった日

真夏日だろうが熱帯夜だろうが、暑ければそれで良かった1981年の夏にエアチェックしたカセットテープは、27年後の今日もオレにとっては元気の源である。だが、ジャガーと間違えられた(というより、無垢な女子には冗談半分『ジャガーだよ』と言ってみることにしていた)1979年式マークIIのセンターコンソールはカセットテープを飲み込んでくれても、正真正銘21世紀生まれのマークXは受け付けてくれない。

だから、カセットデッキとパソコンをコードでつなぎ、アナログ音源をデジタルファイルに変換したうえでCDに焼いてある。デジタルなオーディオ環境から出てくるアナログな音。まったく便利な世の中になった。もっと便利なのは、車載のAVユニットがCDの音源をハードディスクにコピーしてくれることで、己の精神年齢とは何の関連もなく進歩する技術に感謝の気持ちを捧げたくなる。

エンジンスタート・スイッチを押してV6エンジンの鼓動を確認し、ハードディスクから『1981 ROCK』のタイトルを呼び出すと、流れてくるのはローリングストーンズの『スタート・ミー・アップ』。キース・リチャーズのギターが奏でるイントロを耳で捉えるまでもなく、頭の中ではさっきから乾いたギターフレーズが鳴りっぱなしだった。シフトレバーをDレンジに入れたところでふと会議のことが気になったが、メールで丁重な詫びを入れておいたので問題ない、と気を取り直し、東名・用賀ICに針路を取る。

とにかく西だ。あの頃は峠の駐車場で缶コーヒーを飲むためだけにクルマを引っ張り出したりしたが、オレも外見上は立派な大人(に見えるはず)だから、今日は浜松のうなぎを食いに行く。あの頃の自分と差を付けたつもりだが、「無性にどこかに行きたくなる」衝動を満足させるためであることに変わりはない。カップホルダーに置いたケータイの存在が気にならないでもなかったが、極力フロントウィンドウの外に注意を振り向けるようにした。

平日の東名高速は、休日に見る風景と寸分の違いもないはずなのに、まったく異なる世界にいるよう。80年代サウンドが魔法をかけたせいで、フロントウィンドウの外には、永井博か鈴木英人ばりの夏の風景が広がっている。

波打ち際の由比PAで休憩。休憩といえば缶コーヒーである。ドアを開けた途端に潮の香りがするのは予想していたが、どこにその発生源があるのか、日焼けオイルの甘いココナッツの香りが漂ってきた。あの頃の夏が鮮明にカムバック。元気の源、もうひとつ発見。マークXはレインボーの『アイ・サレンダー』を鳴らしていた。


TOYOTA『MARK X』
撮影協力:東京トヨペット調布店)