岡崎五朗のクルマでいきたい vol.58 クルマにスマイルランプ

  先日、横浜で首都高が主催するトークショーに出演した。テーマは「首都高を楽しく安全に走ろう」というものだったのだけれど…いざスタートすると思わぬ方向へと話題が進んでいったのだった。

  当日のメンバーは首都高神奈川管理局長の中山尚信さん、東京スマートドライバープロデューサーの山名清隆さん、カーライフエッセイストの吉田由美さんに僕を加えた4人。

  まずは山名さんから「ホメパト」の紹介があった。違反をすると捕まえるパトカーがいるなら、スマートな運転を誉めてくれるパトカーがいてもおかしくないのでは? という発想から始まり、実際にGT―Rのホメパトが首都高を走っていたという。叱るだけではなく誉めて伸ばす。子育ての経験がある人なら、この手法の有効性を身を以て体験しているに違いない。

  そこから話題はサンクスハザードに。ハザードランプの点滅で「ありがとう!」の気持ちを表す習慣はとても素敵だと思うけれど、ハザードランプは本来危険を知らせるためのもの。ひとつの機能に二つの意味を持たせるダブルミーニングは安全上好ましくないですね、と僕。

   「だったら、フェイスブックのいいね! やLINEのスタンプのような機能がクルマに付いていてもいいのでは?」 「ボタンを押すとスマイルランプが点くクルマかぁ。いいですねそれ。ついでに急いでるからお先に失礼とか、ごめんなさいランプもあったらいいかも」

  なんて冗談のような話が飛び出すと、会場には苦笑いする人も。けれど、ドライバーどうしがもっと濃密なコミュニケーションをとれるようになれば路上での「イライラ」や「ムカつき」は減り、ドライブがもっと楽しく安全になるというのはひとつの真実だと思う。

  最後に2020年の東京オリンピックに向け、自動運転をはじめとする日本の高度な自動車技術を、首都高を舞台に世界中の人に披露できたらいいですねという結びでトークショーは終了。三人寄れば文殊の知恵ではないけれど、自分一人では考えつかないようなアイディアがいくつも飛び出した、とても楽しく有意義な時間だった。


MITSUBISHI ek SPACE 三菱 ekスペース

カタログ値より実用重視 多彩な使い勝手と加速性能

  ekスペースは、ダイハツ・タントが開拓したスーパーハイトワゴンと呼ばれるジャンルに属するモデル。日産とミツビシが出資してつくった合弁会社「NMKV」(日産ミツビシ軽ヴィークルの略)が投入する第2弾だ。

  日産版はデイズルークスと呼ばれ、装備内容や細かいデザインは異なるものの、中身はうり二つの双子車。このあたりは第一弾であるekワゴン&デイズと同じ流れとなる。

  スーパーハイトワゴンは、スズキ・スペーシアやホンダN・BOXなどをあわせると軽自動車のなかでもかなりのシェアを握り、なおかつ単価も高めなので、各メーカーとも気合いの入ったモデルを投入してきている。そんななか、最後発のekスペースがアピールしているのが使い勝手のよさだ。メーカーは「33の思いやり」と呼んでいるが、すべてを網羅するスペースはないのでかいつまんで紹介すると…クラス最長となる260㎜の後席ロングスライド機構、ルームミラーに内蔵したアラウンドビューモニター、後席の快適性を高めるリアサーキュレーターなど。ちなみに室内長もクラス最大だが、カタログ上の室内長は必ずしも実際の広さを反映しないので「ライバルには負けていない」ぐらいに考えておけばいい。

  その他の細かい装備やアイディアについてはカタログ等を見ていただくとして、報告しておかなければいけないのが走りだ。ekワゴンはカタログ燃費を重視するあまり加速性能が決定的に不足していた。だとすれば、同じエンジンを積み、100㎏近く重いekスペースがどうなってしまうのか心配しないわけにはいかない。結論から言って、ターボはもちろん自然吸気エンジン搭載モデルでもそこそこちゃんと走ってくれた。いったいどんな魔法をかけたのか? 答えは簡単。カタログ燃費に目をつぶり、CVTを実情に即したセッティングにしたのだ。ekワゴンにもこのセッティングを早く移植して欲しい。

子育て世代の使い勝手を考えた33もの機能が満載。助手席の背面には折り畳み式のテーブルを設置、ベビー用マグカッブを置くホルダーやコンビニフックもつく。前席に座ったまま後席の子どもの世話ができる、260㎜前後に動かせるリアシートは、左右独立で折り畳め、横に広いベビーカーや大きな荷物なども搭載可能。室内高は子どもが立ったまま着替えられる空間を確保した。

MITSUBISHI ek SPACE

車両本体価格:¥1,416,960(G・2WD、税込)
全長×全幅×全高(㎜):3,395×1,475×1,775
車両重量:930kg 定員:4人
エンジン:DOHC12バルブ3気筒  総排気量:659cc
最高出力:36kW(49ps)/6,500rpm
最大トルク:59Nm(6.0kgm)/5,000rpm
JC08モード燃費:26.0km/ℓ 駆動方式:2WD

SUBARU LEVORG スバル レヴォーグ

日本のために開発された大きすぎないプレミアムワゴン

  ビジネスのグローバル化が進むにつれ、自動車メーカーには各マーケットのニーズに沿った商品の開発が求められるようになった。なかでも日本メーカーが頭を悩ませているのが北米市場と自国市場のニーズの違い。北米市場ではちょうどいいサイズが日本では大きすぎると敬遠されてしまうのだ。

  現行レガシィはボディを大型化することで北米で大ヒットを記録。スバルのビジネスに大きく貢献した。次世代モデルの開発も北米重視になるのは当然の成り行きだ。事実、次期レガシィは現行モデルよりさらに大きくなる。全幅はおそらく1900㎜程度になるだろう。おまけに北米ではほとんど需要のないステーションワゴンも廃止されセダンとアウトバックの2種類のみとなる。

  そこで問題になるのが日本での次期レガシィだ。大きなボディにワゴンもなしでははっきり言って勝機はない。そこでスバルは日本専用モデルの開発という思い切った行動に出た。その結果登場したのがレヴォーグだ。

  レヴォーグのボディサイズは全長4690㎜、全幅1780㎜。全幅は5ナンバーサイズを超えたが、これは「外観にプレミアム感や存在感を与えるため(開発者)」とのこと。ひと昔前ならともかく、現在は各社とも1800㎜以下が日本でストレスなく扱えるひとつの基準だと捉えているようだ。

  ボディサイズは小さいが、価格はもっとも安いグレードでも267~356万円と決して安くない。スバルが狙ったのは、扱いやすいサイズのプレミアムなワゴンである。

  となると気になるのはクルマとしての出来映えがプレミアムかどうか。発売前だったのでテストコースのみでの試乗だが、ボディ剛性やインテリアの質感は現行レガシィ以上。2ℓターボはとんでもなく俊足で、1・6ℓでも十分スポーティーに走る。エクステリアデザインがちょっと保守的なのが気になる部分だが、価格相応の実力は間違いなくある。

国内ニーズに応えるために開発されたレヴォーグ。現行レガシィ・ツーリングワゴンの後継モデルとして、日本の交通環境に適したボディサイズを叶えた一方で、室内幅は拡大し後席の足回りのスペースも確保、荷室は同等の面積を実現した。パワートレーンは、新開発の水平対向4気筒DOHC1.6ℓ直噴ターボ「FB16」エンジンと、水平対向4気筒DOHC2.0ℓ直噴ターボ「FA20」エンジンをラインアップ。また、1.6GTを除く全モデルに最新アイサイト(ver.3)が搭載されている。

SUBARU LEVORG

車両本体価格:¥2,775,600(1.6GT EyeSight、税込)
全長×全幅×全高(㎜):4,690×1,780×1,485
車両重量:1,530kg 定員:5人
エンジン:水平対向4気筒1.6ℓDOHC16バルブデュアルAVCS直噴ターボ“DIT”
総排気量:1,599cc 最高出力:125kW(170ps)/4,800~5,600rpm
最大トルク:250Nm(25.5kgm)/1,800~4,800rpm
JC08モード燃費:17.4km/ℓ 駆動方式:AWD(4輪駆動)

NISSAN TEANA 日産 ティアナ

姿を消した独特の世界観“おもてなし”から走行重視へ

  2003年にセフィーロの実質的な後継モデルとして登場した初代ティアナは衝撃的なモデルだった。スポーティかオヤジ向けかの2種類しかなかった日本製セダンに、「モダンリビング」という概念を持ち込んだからだ。走行性能に特筆すべき点はなかったけれど、スリークな外観やミッドセンチュリーの家具をイメージしたインテリアなど、独特の世界観は僕の大のお気に入りだった。

  2代目では「モダンリビング」というコンセプトは後退し、「おもてなし」を前面に押し出したセダンへと変化。フロントには派手なメッキグリルが付いた。中国市場ではモダンリビングというコンセプトは理解されないという読みがあったようだ。

  そして新型になりティアナはついにティアナではなくなった。北米でカムリやアコードと販売台数を争う量販セダン、マキシマの兄弟車になってしまったのである。経営効率の追求はしばしば個々のクルマの個性を奪うが、今回のティアナはまさにその典型例。初代から続いているのは、中型FFセダンであることと、助手席オットマン程度だ。初代ティアナ好きの僕としては、いっそのことマキシマというネーミングで売ればいいのにと思ったほどである。

  それはさておき、乗ってどうかだが、大幅な改良を施された2・5ℓV6エンジンとCVTは、大柄なボディを軽快かつゆったりと走らせる。常用回転域でのトルク感と静粛性、CVTの悪癖であるゴムバンドフィーリングをほぼ克服した素直な変速フィールも歓迎したい部分だ。一方で、上まで回していくと心地よいとは言えないエンジン音が耳についたり、足回りも、大きめの段差では尖ったショックを伝えてくる。ショックとともに室内に侵入してくるタイヤの打音も大きめだ。あと10~20㎏分のウェイト減とコストをかけてボディ剛性や遮音性を改善すれば、全体の上質感はさらに増すはず。今後の改善に期待したい。

3代目ティアナは、日本やアメリカ、中国などを中心に世界120ヵ国以上、年間60万台を販売するグローバル戦略車として開発された。先2代の快適性を継承しつつ、走行性能にも徹底的にこだわったのが特徴。目的地までたどり着く時間を同乗者と味わえるよう、余裕のある走りと快適性を高次元で両立させたという。ターゲットには、独自のスタイルとアイデンティティを持つ夫婦をイメージしている。

NISSAN TEANA

車両本体価格:¥2,831,760(XL、税込)
全長×全幅×全高(㎜):4,880×1,830×1,470
車両重量:1,470kg 定員:5人
エンジン:DOHC直列4気筒  総排気量:2,488cc
最高出力:127kW(173ps)/6,000rpm
最大トルク:234Nm(23.9kgm)/4,000rpm
JC08モード燃費:14.4km/ℓ 駆動方式:前輪駆動

FORD ECO SPORT フォード エコスポーツ

タフさと実用性を兼ね備えた日本初導入のコンパクトSUV

  エコスポーツというネーミングを聞いて、なんとなく聞き覚えがあるなと思った人もいるかもしれないが、それは「エコ」と「スポーツ」という、しょっちゅう耳にする言葉の掛け合わせだから。フォードのコンパクトSUVであるエコスポーツが日本に導入されるのは、今回が初めてだ。

  エコスポーツの最大の特徴は、10年前にデビューした初代RAV4のような背面スペアタイヤ。最近のSUVは乗用車的な感覚を重視してスペアタイヤを車内か床下に収納するものがほとんどだが、フォードはあえてバックドアに取り付けてきた。

  「いまどきちょっと古臭いのでは?」と一瞬思ったものの、広大な荷室と、ドラム式洗濯乾燥機をドーンと積み込むデモンストレーションを見せつけられ、思わず納得してしまった。

  コンパクトなボディサイズでありながら、荷室容量は362ℓ~705ℓを確保。加えて開口部が大きく形状もスクエアなので、趣味のものでも仕事のものでもなんでも構わず放り込める。350㎖缶6本を収める保冷機能付き大型グローブボックスをはじめとする合計20ヵ所に及ぶ室内の小物入れを含め、実用性の高さはちょっとすごい。

  初代エコスポーツは南米専用車として2003年に登場。今回の2代目でグローバルモデルになったが、依然としてブラジルを中心とした南米のニーズが色濃く採り入れられているという。彼の地でのファーストプライオリティはお洒落さでも洗練性でもなく実用性。よって背面スペアタイヤはある意味必然なのである。さらに、550㎜(ちょうどタイヤが隠れるぐらい)までの水深に耐えられる設計や、悪路でも下回りをこすらない余裕の最低地上高など、エコスポーツには最近のコンパクトSUVが失いつつあるタフさも備わっている。お洒落なモデルが増えてきたからこそ、エコスポーツのようなモデルに惹かれる人も多いのではないだろうか。

普段なら躊躇する道も厭わず進めるタフな走破性と、狭いパーキングや混んだ街中でも楽に運転できるコンパクさを併せ持つスモールSUV。ユーティリティは実用性満載ながら、運転中には簡単な音声操作で携帯電話や音楽をハンズフリーで楽しめるほか、バッグドアの開閉ドアをリアコンビランプに隠すなど、時代に合わせた使い勝手やお洒落さにも気を配っている。

FORD ECO SPORT

車両本体価格:¥2,460,000(ECOSPORT TITANIUM、税込)
全長×全幅×全高(㎜):4,195×1,765×1,655
車両重量:1,270kg 定員:5人
エンジン:直列4気筒1.5ℓ Ti-VCT  総排気量:1,497cc
最高出力:82kW(111ps)/6,300rpm
最大トルク:140Nm(14.3kgm)/4,400rpm
JC08モード燃費:14.5km/ℓ 駆動方式:前輪駆動

文・岡崎五朗

Goro Okazaki

1966年生まれ。モータージャーナリスト。青山学院大学理工学部に在学中から執筆活動を開始し、数多くの雑誌やウェブサイト『Carview』などで活躍中。現在、テレビ神奈川にて自動車情報番組 『クルマでいこう!』に出演中。

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