ひこうき雲を追いかけて vol.78 声なき声にこたえる

編集長・若林葉子

 今年1年を振り返って、印象に残っていることを挙げるとすると、ボルボとハスクバーナだろうか。

 ボルボは昨年末にXC60が2017-2018年度のカー・オブ・ザ・イヤーに輝いたが、今年もますます勢いを増し、もしかしたらこの号が出るころには、XC40で2年連続……ということも十分にあり得ると私は思っている。一方、バイクに目を向けてみると、ハスクバーナのヴィットピレンは発表直後から、ライダーのみならず、というよりむしろ二輪業界以外から、驚くほど注目され、さまざまな形で取り上げられた。

 ボルボとハスクバーナ。偶然かどうか、どちらもスウェーデンのメーカーである。

 ボルボがなぜ今、飛ぶ鳥を落とすほどの勢いを持つに至ったかについては本誌11月号(vol.192)で「白鳥に生まれ変わったボルボ」としてピーター・ライオン氏に分析してもらったが、ハスクバーナも事情は少し似ている。1987年にカジバに、2007年にBMWに、そして2013年にKTMグループの傘下に入り、ようやく、今またその存在感を知らしめているように見える。

 以前にも書いたことがあるが、2008年の2月に私は「Polar Adventure」と銘打ったボルボのプレスツアーに参加した。ヘリコプターで雪と氷に閉ざされた北極圏に降ろされ、氷点下の雪原でテントを張って一夜を過ごし、吹雪の中、アルペンスキーで山を登り、頂上からスキーで山を下った。3時間の山越えだ。無事乗り切って、麓で待っていたXC70に乗り込んだときには、疲労と安堵で不覚にも涙が滲んでしまったほどだ。そのあとは猛吹雪に見舞われながら、フィヨルドをドライブした。数十分ごとにクルマからおりて、フロントウィンドウに凍りついた雪をがりがりと剥がさなければ視界が確保できない。そんな厳しい状況でも、クルマの中はつねに暖かく穏やかで、あの安心感がイコール私の中のボルボである。

 デンマーク語で“ヒューゲ”という言葉が何年か前に話題になったそうだ。心地よさとか幸福感とかほっこり感とか、そんなふうな意味らしいが、今も昔も私はボルボのクルマに、根底に自然光のもたらす温かさや光を感じる。

 一方、ヴィットピレンはというと、今の時代に“足つき性”など完全に無視して、とことんデザイン性を優先させ、それを突き詰めたところがとにかくすごい。人が乗ることで完成されるバイクにあって、少しも人に媚びず、孤高の存在感を際立たせている。ものすごく乗りにくいはずなのに、しかし、乗ってみるとキャリアのある人ほど面白いと言う。デザイン性しか考えられていないように見えて、実はバイクの本質的な面白さを隠し持っている、その妙。

 人はいつもクルマやバイクに知らずしらず、クルマやバイク以上の“何か”を求めていて、ボルボやハスクバーナは今、そういう人々の声なき声にこたえている、ということなのかも知れない。

Photo:Yoko Wakabayashi

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