フランス人はなぜ日本が好きなのか?

文・南陽一浩

インバウンドの外国人ツーリストの国籍別割合で、フランス人が増えているそうだ。筆者が数年前に帰国した頃、日本の観光情報を外国語発信するなら、西欧言語では英語以外にフランス語も揃えた方がいいですよと、方々で売り込んでも、まったく相手にされなかったものだが。

 英国やドイツなどゲルマン語系以北と、ラテン語系の地域では、それこそ日本でいう関西と関東以上に、文化も感覚も違う。欧州で流行なり志向性あるカルチャーを発信できる街は、こう言うと怒られるだろうが、伝統的にパリとロンドンだけだ。ベルリンやミラノから出るトレンドもなくはないが、所詮ローカル色は否めない。パリで流行ったものはロンドンにも上陸するし、逆もまた然りで、数年内にイタリアやスペインなど南欧にも必ず伝播する。その後はEU域外、アフリカやアジア、アメリカや南半球にも広まる。そんなビジネスモデルを念頭にフランス人は動いている。ブレグジットで英国は感覚的に遠くなるだろうが、さして気にしないのはアングロサクソン文化圏は元より異質であると捉えているからだ。

 要は日本から「グローバル発信する」のに英語だけでは不十分で、ラテン語系側に働きかけるにはフランス語と、相変わらず西欧の文化的首都を自認して止まないパリを避けて通ることはできない。

 フランス人は日本が好きか? と問われれば、元よりアニメ好きか和食ファンといった先鋭層以外のところでも、確かに増えてきた。日本で「地球の反対側」といえばブラジルのことだが、じつはフランスでは日本を指す。言葉の綾とはいえ、南半球自体が知覚されていないかのようだ…。

 加えて、フランス人にとって日本は物価が高いイメージだった。だがユーロがずっと強くて、従来の欧州隣国やアフリカといった安・近・短とは目先の違った旅行という遡上で、日本が行先として挙がるようになった。かくして、まるで異なる文明・文化であることを期待してやって来るため、神社仏閣はお約束。宮島や隠れキリシタン遺構とセットで広島や長崎を訪れるのは、人類史上唯一の核攻撃や近世にカトリックの布教が極東に及んでいたという、歴史的興味がある。

 つまり日本は、最初から特定の手工芸やアニメが旅行の目的というオタクなフランス人でもない限り、「まだ行ったことのない行先」という消去法で来てみた割に、遠くて近い歴史上の絡みを発見しつつ、シンパシーや楽しさを感じてハマる対象、それが実情だろう。実際のところ、饒舌と寡黙、彩りと無彩、甘さと辛さ、精緻さと簡潔さといった、日本人とフランス人、それぞれの目に見えて現れる表現や態度はしばしば真逆ながら、根底にある感覚や価値観、哲学はじつは共通していることが多い。贈り物をもらったら、日本は慎み深くお礼を述べて贈り主の許しがない限りその場で開けたりしないが、フランスでは贈り主の目の前でラッピングをビリビリに破かないと喜んでいることにならない。そうした態度の違いは当初の距離感として映りやすいものの、3度の食事や食材にこだわらずにいられないとか、個人主義者だが家族は重視するといった傾向は、ざっくりとはいえ、肌感覚で共有している。

 実際、クルマの世界ではアルピーヌA110とDS 7クロスバック、それぞれ50台と40台限定の日本向けプルミエール・エディションは順当に完売した。またフランスでワンメイク、ワンモデルでマニア雑誌が成立しているのはシトロエン2CVとスバル、ポルシェ911と、水平対向オンリーだったりする。意外と感覚的には近しい外人同士なのだ。

ALPINE A110

DS 7 CROSSBACK


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