特集 エターナルバリュー

 世の中全体がひとつの方向を向いていられる時代ではなくなり、あふれる情報や多様な価値の中から、それぞれが自分なりの価値観を見つけなくてはならなくなった今。

 私たちはクルマやバイクをどう選び、どう付き合っていけば良いのだろう。

デザイン8割で行こう!

文・竹岡 圭 / 写真・長谷川徹

 「クルマの購入動機は見た目が8割以上!」コレ、私がモータージャーナリストと名乗りだす前、つまりこの業界に入り文章を書き始めてすぐ、まだライター見習いです~ と言っていた頃から、私のモットーのひとつとして掲げていることだったりする。

 何を隠そう免許取得中にこの業界に入ってしまったので、運転技能は初心者マーク。当然のことながら、運動性能やメカニズムのことはチンプンカンプン。見た目の話しかできなかった…! からかもしれない。

 でもその90年代初め…。いやもうハッキリ言っちゃうと、それは’93年なのだが、その頃はまだ、「8割!」なんてことを声高に言う人はいなくて、クルマのデザインは今ほどフィーチャーされていなかったように思う。

 もちろん、あのクルマがカッコイイだの、このクルマはイマヒトツだの言われてはいたし、「バブル時代に豪華に設計されたクルマが、デザインは斬新なまま、内容は時代に合わせてやや抑えて登場!」なんてものもたくさんあって、いまと比べれば派手な時代だったのかもしれないけれど、ジウジアーロとピニンファリーナは別格として、少なくとも今ほどクルマのデザインは表立って語られていなかったはずだ。

 デザイナーさんだって、昨今ほどいろいろな場面でスポットを浴びて登場することは少なく、私が某誌で「デザイナーとデート♡」という連載を始めたら、それがデザイナーさんの間で「オレまだデートしてないよ~?」などと、話題になったほどだった。

 それがいつの間にやら「やっぱりクルマはデザインでしょ!」と、普通に言われるようになり、なにしろこういった内容の原稿依頼をいただくまでになったのだから、時代の流れというのは面白い。と言いながら、この仕事を始めてもう25年目という自分に、いまこの原稿を書きながらいちばんビックリしていたりするのだが…(汗)。

 もとい! そんな25年の間にも、クルマのデザインはずいぶん変わった。当然のことながら流行り廃りもあれば、安全基準を満たすため、空気抵抗を減らすため等々、抗えない理由によるところも大きい。私の大好きなリトラクタブルヘッドランプも、アメリカの安全基準によって、使えないデザインのひとつになってしまった代表選手だ。

 でもいつの時代も愛されるクルマ、いつの時代でも愛されるデザインというものもある。しかもそれをキライという人には、世界各国照らし合わせても、ほぼお目にかかったことがないというほどのツワモノがいるのだ。

 その選抜選手は、MINIとフィアット500。MINIはクラシックMINIは当然のこと、BMW MINIもすぐに市民権を得て、その後3度のフルモデルチェンジを経て、しかもそのどれもが世界中で大ヒット。さらにクラシックMINIの時代にはなかったバリエーションを増やし、しっかりブランドとしての世界観を築き上げている。

 フィアット500も然り。往年のモチーフを上手く取り入れながら新世代の装いとし、またアバルトブランドだけでなく、プレミアムファッションブランドとコラボレーションしたりと、多彩なボディカラーやパワートレインを搭載することで、常に話題を提供し続けている。

 残念ながら日本車にはそういったモデルはまだないのだけれど、世界をアッ!と言わせたモデルはいくつもある。この25年で言っても、例えばトヨタのヴィッツは、ようやく欧州コンパクトカーにデザインで追いついたなどと言われ、またピンクというボディカラーを世界に流行らせた立役者となったし、左右非対称デザインで話題を呼んだ日産キューブは、未だに買い替えたいと思えるクルマがなくて、長らく乗っているというユーザーが多いと聞いている。

 ところがそんなキューブユーザーが「あ!これならいいかも!」と目を付けて、実際乗り換えだしているのが、スズキクロスビーなんだそうだ。

 昨年の東京モーターショーでお披露目され、ほぼそのまんまの姿で登場したクロスビー。確かにキューブから乗り換えるには、サイズ的にもちょうどいいのだろう。そして負けず劣らず個性も主張しているし、何と言っても、クロスビーを購入したら、こんなことができそうだな、あんなところにも行けそうだな…と、シチュエーションが描けるのがいいのだ。

 そう、時代を超えて愛されるクルマは、見た瞬間に新しいライフスタイルが想像できて、それが明るく楽しい色彩で彩られていることが共通項なのかもしれない。クルマのデザインや、それを発信するデザイナーさんがフィーチャーされてきたのも、クルマが単なる道具ではなく、生活を彩るライフスタイルアイテムとしてみんなが認識するようになったからなのだ。もはやクルマはキッチリ書くことが仕事の、製図用のシャープペンシルではなくなったのである。

SUZUKI XBEE

 「デカハスラー」そう呼ばれるのもよくわかる。実際並べてみても、似ているなぁと思う。でもそれでOK。というか、それのどこが悪いの? と、私は思っている。

 例えば世界各国で愛されているMINI。3ドアハッチバックがあって、5ドアがあって、クラブマンがあって、クロスオーバーがあって…。でもどれをとってもMINIだし、それで世界が確立している。誰も文句も言わない。

 クロスビーも然り。ハスラーがあって、クロスビーがあって。いっそ、デカハスラーという名前でよかったんじゃないか? そうやって新ブランドを築くという手もあったかもしれないぞ。なんてことまで思ってしまう。

 でもそんなことを言えてしまうのは、どちらも基本性能がしっかりしているからだ。クロスビーはソリオと同じプラットフォームである。ソリオは荷物がたくさん積めて、利便性も高く、走りもしっかりと、このクラスでは図抜けた存在だ。

 そこに夢が加わった。道なき道をまでとは言わないが、シチュエーション問わずの走破力を誇るSUVは、パッケージング的に狭いのが難点と言われてきた。そこにワゴンというかプチバン並みのスペースを誇るパッケージング力がコラボレーションされているため、キャンプ道具一式積んで、取付道路が狭く、途中デコボコが多い、河原の駐車スペースまで…といったことがいとも簡単に想像できてしまうのだ。しかもお昼寝スペース付きと来たら…。デカハスラーもといクロスビー。もうワクワクしない理由がない。

●車両本体価格:2,046,600円(税込、HYBRID MZ/2WD/2トーンルーフ仕様車)●エンジン:水冷4サイクル直列3気筒直噴ターボ●総排気量:996cc●最高出力:73kW(99ps)/5,500rpm●最大トルク:150Nm(15.3kgm)/1,700~4,000rpm

「特集 エターナルバリュー」の続きは本誌で

あらがいの本質 山下 剛
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