岡崎五朗のクルマでいきたい vol.105 自動運転車事故の教訓

文・岡崎五朗

 アリゾナ州で走行実験をしていたウーバーの自動運転車が死亡事故を起こした。夜間、自転車を押しながら道路を横切る歩行者にノーブレーキで突っ込んでしまったのだ。

 事故を起こした自動運転車には夜間でも障害物を検知できる高性能センサーが付いていた。にもかかわらず自動運転システムは回避操作をまったくしなかった。なおかつ、バックアップとして乗車していたドライバーもよそ見をしていたため回避操作をしなかった。

 事故の動画を見ると、仮にドライバーがよそ見をしていなかったとしても、暗闇から突然出てきた歩行者を避けられたかどうかは微妙なところだ。が、自動運転車が加害者となる死亡事故は今回が初めてであり、社会に与えたインパクトは大きい。当然ながらウーバーはただちに公道実験を中止。事故を起こしていないトヨタやエヌヴィディアまでもが公道実験の一時中止を自主的に決めた。今後は事故原因の解明と対策に加え、バックアップドライバーへの教育を徹底したうえでの実験再開、という流れになるだろうが、事故の様子がショッキングな動画とともに大きく報道されただけに、今後、自動運転そのものへの不信感が高まるのは避けられそうにない。

 われわれが考えなくてはならないのは、果たしてそれでいいのか、ということだ。自動運転の技術開発には公道実験で収集する生のデータが欠かせない。公道実験が止まれば自動運転の進化は止まる。もちろん、それでよしとする考えもあるだろう。しかし、動き始めた自動運転化の流れは止められまい。誰かがやめても誰かが進める。そして進める国や企業が最終的な勝利を収めることになる。日本や日本メーカーが勝者になる、あるいは少なくとも敗者にならないためには、リスクをとって実験と開発を進めるしか選択肢はない。現在の安全な空の旅が、過去の航空機事故から得た教訓によって成り立っているように、大切なのは、事故を教訓により安全なシステムを目指す姿勢なのではないだろうか。事故の糾弾は国やメーカーを消極的にさせる。いまわれわれに求められているのは、今後起こるであろう自動運転絡みの事故を冷静に受け止めることだと思うのだ。


HONDA STEP WGN SPADA HYBRID
ホンダ ステップワゴン スパーダ ハイブリッド

起死回生のハイブリッド追加

 ’95年に初代ステップワゴンが登場するまで、この種の四角くて背の高いミニバンは商用車からの派生というのが常識だった。トヨタにはタウンエースが、日産にはバネット・セレナがあったものの、どちらもエンジンを運転席&助手席の下に積むキャブオーバータイプであり、乗用車として眺めると快適性にも使い勝手にも高得点は付かなかった。

 そんな状況のなか登場したステップワゴンが画期的だったのは、FFレイアウトを採用したことだ。エンジンをフロントに置くため静粛性が高まり、同時に1列目と2列目を物理的に隔てていたエンジンの盛り上がりがなくなることで、車内を自由に行き来できるウォークスルーが可能となったのだ。このコンセプトは大いに受け入れられ、ステップワゴンは大ヒットモデルへと成長した。ちょうど二人目の子供が生まれたばかりの僕も、初代ステップワゴンを購入して便利に使っていた。
 その後、ライバルたちもFF化されていき、ステップワゴンのアドバンテージは徐々に薄れていく。加えてハイブリッドの投入が遅れたことも重なり、5代目となる現行ステップワゴンはすっかりトヨタのノア/ヴォクシーや日産のセレナの後塵を拝すことになってしまった。そういう意味で、今回のハイブリッド追加は、ステップワゴンにとって起死回生の一手と言っていい。

 ステップワゴンのハイブリッドシステムは凝りに凝っている。基本的にはエンジンで発電した電力でモーターを駆動して走るが、高速道路での一定速走行など、エンジンで走った方が効率がいい状況ではエンジンの力を駆動輪に直接届ける。ノア/ヴォクシーのハイブリッドとセレナのeパワーのいいとこどりである。走らせても優れた静粛性と気持ちのいい加速フィールとしなやかな乗り心地は素晴らしく、高級車の香りすら漂ってくる。厳つい顔のスパーダでしかハイブリッドを選べないのはなんとももったいない。

ホンダ ステップワゴン スパーダ ハイブリッド

車両本体価格:3,559,680円(SPADA HYBRID G・EX Honda SENSING、税込)
全長×全幅×全高(mm):4,760×1,695×1,840
エンジン:水冷直列4気筒横置 
総排気量:1,993cc 乗車定員:7名
車両重量:1,820kg
【エンジン】最高出力:107kW(145ps)/6,200rpm
最大トルク:175Nm(17.8kgm)/4,000rpm
【モーター】最高出力:135kW(184ps)/5,000~6,000rpm
最大トルク:315Nm(32.1kgm)/0~2,000rpm
JC08モード燃費:25.0km/ℓ 駆動方式:前輪駆動

VOLKSWAGEN ARTEON
フォルクス ワーゲン アルテオン

パサートCC後継のスポーツモデル

 VWの最新モデルであるアルテオンは、パサートに近いサイズのスタイリッシュな4ドアクーペだ。パサートCCとどこが違うの? と思った人は鋭い。パサートCCがマイナーチェンジでフォルクスワーゲンCCへと改名し、今回のフルモデルチェンジでアルテオンとなったと考えるのが正解だ。

 とはいえ改名したのには理由がある。VWとしてはパサートという質実剛健なセダンとはまったく異なる、エモーショナルとかプレミアムとかスポーティーとか、そういうイメージのクルマをつくりたかった。そこで、まったく新しいネーミングを与えてきたというわけだ。

 もちろん、変わったのはネーミングだけじゃない。「500万円台で買える全長4.8mクラスの4ドアクーペ」という大まかなコンセプトこそオーバーラップするものの、アルテオンはよりアグレッシブに、かつよりプレミアムな装いになった。4枚のドアを備えたモデルとしては、VW史上もっとも攻めたデザインだと思う。加えて、4ドアクーペに見えて実はリアに大きな開口部をもつ5ドアハッチバックであるのも新しい。

 パワートレインでも攻めている。搭載するのは280psを発生する2ℓ4気筒ターボ。フォルクスワーゲンCCが160psの1.8ℓターボだったことを考えると、まるで別モノである。実際、アルテオンの走りは刺激的だ。とくにフルスロットルで加速していく際の抜けのいいサウンドと軽快な加速は、スポーツモデルに乗っていることを強く意識させてくれる。それでいて日常域での扱いやすさや乗り心地もきっちり確保しているあたりはVWらしい。つまりアルテオンとは、カッコよくて速くて快適で運転しやすく使い勝手にも配慮したオールインワン的モデルということだ。価格面でアウディA4が視界に入ってきてしまうのは少々気になるところだが、全体的な完成度はかなり高い。

フォルクス ワーゲン アルテオン

車両本体価格:5,490,000円~(税込)
*諸元値のグレードはR-Line 4MOTION Advance
全長×全幅×全高(mm):4,865×1,875×1,435
エンジン:直列4気筒DOHCインタークーラー付ターボ(4バルブ) 総排気量:1,984cc
車両重量:1,700kg 最高出力:206kW(280ps)/5,600~6,500rpm
最大トルク:350Nm(35.7kgm)/1,700~5,600rpm JC08モード燃費:13.3km/ℓ
駆動方式:四輪駆動

CHEVROLET CAMARO
シボレー カマロ

V8も用意の現代的カマロ

 カマロといえばマスタングとともにアメリカン・マッスルカーを代表する存在だが、フォードの日本撤退によってマスタングの販売は中止。孤軍奮闘することとなった。

 1967年の初代から数えて6代目にあたる新型は、カマロらしさを色濃く残しつつ、現代のクルマに求められる要素を積極的に採り入れてきたのが特徴だ。エクステリアデザインはキープコンセプトとしつつ、サイズを若干コンパクト化するとともに、アルミなどを使って90㎏の軽量化を実現。新開発の2ℓ4気筒ターボ搭載モデルはカマロ史上もっとも燃費のいいモデルとなった。インテリアの質感も向上し、以前のような「プラスティックがプラスティッキーに見えて何が悪い!」みたいな開き直りは影を潜めた。これなら日本車や欧州車から乗り換えてもインテリアの質感にガッカリさせられることはないだろう。

 一方、マッスルカーはやっぱり大排気量エンジンじゃなきゃね、という人のために6.2ℓV8も用意する。自然吸気の大排気量V8なんてもはや絶滅危惧種だが、乗ってみて強く思ったのは「絶滅させるのは惜しい」ということ。ドスの効いたサウンド、背中を蹴飛ばされるような野太いトルク、素晴らしいレスポンスなど、ターボエンジンにはないエンターテインメント性には抗しがたい魅力がある。直噴や気筒休止機構によって燃費にも配慮しているが、テスト時の燃費は6㎞/ℓ代半ばにとどまった。しかしこの数字にさえ納得させられてしまうほど味の濃いエンジンだった。この価格でこれほどエンジンの存在感が強いクルマなど他にない。

 カマロとしては初めて可変ダンパーを採用したことで、乗り心地もよくなった。いちばんソフトな「ツアー」モードを選択していれば荒れた路面でも眉をひそめるような挙動はでない。次のカマロがどうなるかちょっとわからないが、こういうクルマに乗りたいならいまのうち乗っておいたほうがよさそうだ。

シボレー カマロ

車両本体価格:5,162,400円~(税込)
*諸元値のグレードはカマロLT RS
全長×全幅×全高(mm):4,780×1,900×1,340
エンジン:直噴 直列4気筒 DOHC VVT(インタークーラー/ターボチャージャー付)
総排気量:1,998cc
乗車定員:4名 車両重量:1,570kg
最高出力:220kW(275ps)/5,500rpm
最大トルク:400Nm(40.8kgm)/3,000~4,000rpm
駆動方式:後輪駆動

MERCEDES-BENZ E-CLASS ALL-TERRAIN
メルセデス ベンツ Eクラス オールテレイン

ベスト・オブ・Eクラスステーションワゴン

 エンジンは2ℓ4気筒184psから4ℓ8気筒612psまで。価格は694万円から1,858万円まで。驚くべきバリエーション数を誇るEクラスにニューフェイスが加わった。Eクラス・オールテレインは、E220dステーションワゴンをベースに車高を上げ、4WD化したSUV風モデルだ。背の高いステーションワゴンというコンセプト自体は、アウディ・オールロード・クワトロやレガシィ・アウトバックなど古くからあり、いまとなってはとくに新鮮味はない。少しでも販売台数を増やすべく、すき間があればそこに商品をガンガン投入してくるという、最近のメルセデス流ビジネスの申し子と解釈することもできるだろう。というわけで、乗るまではまた種類が増えたわけね、ぐらいの印象しかもっていなかった。しかし、実際に試乗してみて評価がガラリと変わった。こいつは間違いなくザ・ベスト・オブEクラスステーションワゴンである。

 まず、ベースとなったE220dが素晴らしい。ディーゼルエンジンは力強く、静かで、かつ燃費に優れ、乗り心地に関しても4気筒ガソリンエンジンを積むモデルより重厚かつしっとりしている。オールテレインは、そんなE220dよりもさらに足がいい。上級モデルのみが搭載する電子制御式エアサスペンションと長いサスペンションストロークがしなやかな乗り心地の理由だ。昔のメルセデスの足はしなやかでよかった…なんて嘆いている方が乗ったら、これだよこれ! と思うに違いない。一方、使い勝手は普通のEクラスステーションワゴンと同じだ。ラゲッジスペースは広大だし、ハンドルの切れ角が大きいから小回りも効く。車高は上がったものの1,495㎜に収まっているから、タワーパーキングも利用可能だ。SUV風である以前に、とにかく乗って気持ちのいいハードをもっている。そこがオールテレインのキモだ。

メルセデス ベンツ Eクラス オールテレイン

車両本体価格:8,750,000円(E220 d 4MATIC ALL-Terrain、税込)
全長×全幅×全高(mm):4,950×1,860×1,495
エンジン:DOHC直列4気筒ターボチャージャー付
排気量:1,949cc 乗車定員:5名 
車両重量:1,940kg
最高出力:143kW(194ps)/3,800rpm
最大トルク:400Nm(40.8kgm)/1,600~2,800rpm
JC08モード燃費:16.8km/ℓ
駆動方式:4WD

Goro Okazaki

1966年生まれ。モータージャーナリスト。青山学院大学理工学部に在学中から執筆活動を開始し、数多くの雑誌やウェブサイト『Carview』などで活躍中。現在、テレビ神奈川にて自動車情報番組 『クルマでいこう!』に出演中。

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