岡崎五朗のクルマでいきたい vol.101 EV報道の真実

 最近、いろいろなメディアでEVにまつわる記事を目にするようになった。ついにEVの時代がやってきた! といった前のめりの姿勢で、IT系や経済系のライターさんたちがこぞってEV関係の記事を書き出したからだ。

 もちろん、それ自体は悪いことではない。いろいろな人がクルマの話題を採りあげるのは大歓迎である。とはいえ問題は記事の内容。あまりにクルマを知らなさすぎるよね、と思うことが多いのだ。

 その代表的な論が「日本の自動車メーカーも早くEVを作らなければガラケーの二の舞になる」だ。たしかにガラケーはスマホに負けた。しかしなぜ負けたかを考えれば答えは明快で、ガラケーよりスマホの方が多機能で使いやすく魅力的だったからだ。同じ観点でEVを眺めてみる。エンジン車やハイブリッド車と比べ、果たして多機能で使いやすく魅力的か? 答えは誰でもわかるだろう。航続距離、価格、使い勝手など、多くの面でEVはまだまだ完成途上。そこをスルーしてガラケーとスマホを引き合いに出しても論としてまったく筋が通らない。

 「EVは誰にでも作れるから既存の自動車メーカーはダメになる」というのも典型的なミスリードだ。たしかに、エンジンとトランスミッションよりもモーターとバッテリーは簡単に入手できる。そういう意味ではたしかに簡単に作れる。しかしそれと自動車ビジネスとは次元が異なる。気の遠くなるような信頼耐久試験、工場への巨額投資、サプライチェーン、品質保証体制、販売ネットワークの構築など、クリアすべき課題は山のようにある。そういった自動車ビジネスの難しさを知らず、寄せ集めの情報をもとに書くと「誰でも作れる=新規参入続出=既存メーカーは駆逐される」という単純な論調になってしまうわけだ。

 その他にも、発電時を含めたトータルでの二酸化炭素排出量を無視したEVへの無条件賛辞や、日本メーカーはハイブリッドがあるからEVで出遅れた(ハイブリッドで出遅れたメーカーがEVを推しているのが真実)など、誤った情報が目に付く。自動車評論の専門家としては、今後も正しい情報を皆様にお届けしていきたいと思っている。


SUZUKI SWIFT SPORT
スズキ・スイフトスポーツ

内から仕上げたスポーツ性能

 日本では軽自動車メーカーというイメージの強いスズキだが、インドを始め、欧州やアジアなど、米国を除くほぼ全世界でコンパクトカービジネスを展開するグローバルメーカーである。

 その主力となるのがスイフト。自然吸気、ダウンサイジングターボ、マイルドハイブリッド、フルハイブリッドといった多彩なパワートレーンに加え、トランスミッションもCVT、5速AT、6速AT、5速MT、6速MTと、驚くほどのバリエーションを誇る。このあたりは、あらゆる地域のあらゆるニーズに応えなければならないグローバルモデルならではの価値と言える。コンパクトカーの購入を検討している人がスイフトのカタログを眺めれば、かなりの確率で自分のニーズに合うグレードを見つけられるだろう。

 そんななか、スポーティーな走りに特化したグレードがスイフトスポーツだ。同車初となるターボエンジンは1.4ℓの排気量から140ps/230Nmという歴代トップのパワースペックを発生。ボディも欧州仕様のワイド版(全幅1,735mm)を使い、迫力あるスタイリングと操縦安定性を高めたという。

 乗ってみた。ひと言でいえば、想像以上の出来映えだ。エンジンは軽い車体を弾かれたように加速させ、コーナーでは切れ味のいい身のこなしを楽しませてくれる。それでいて子供っぽいスポーティーさが前面に押し出されていないのが気に入った。ガッチリしたボディとスムーズに動く足によって乗り心地は望外にいいし、横Gが高まれば高まるほど重要度を増すリアの接地感もしっかりしている。つまり、表面的なスポーツ性ではなく、きっちりと作り込んだ本物のスポーツ性を備えているということだ。急制動時のブレーキのコントロール性、エンジンのトップエンドでの伸びきり感には改善の余地が残されているが、200万円以下でこの走りを味わえるのは凄い。試乗してみる価値は大いにある。

スズキ・スイフトスポーツ

車両本体価格:1,922,400円(税込)(2WD/6MT、セーフティパッケージ装着車)
全長×全幅×全高(mm):3,890×1,735×1,500
エンジン:水冷4サイクル直列4気筒直噴ターボ
DOHC16バルブVVT
総排気量:1,371cc 乗車定員:5名
車両重量:970kg
最高出力:103kW(140ps)/5,500rpm
最大トルク:230Nm(23.4kgm)/2,500~3,500rpm
JC08モード燃費:16.4km/ℓ
駆動方式:前輪駆動

RENAULT MEGANE
ルノー・メガーヌ

四輪操舵採用、上質な大人に贈るGT

 ルノーの主力モデル、メガーヌがフルモデルチェンジした。車格でいうとVWゴルフと同じ欧州Cセグメントに属するクルマなのだが、ニッチ戦略をベースに据えるルノー・ジャポンらしく、日本仕様の主力に位置づけるのはスポーツグレードのGT。1.6ℓ直4ターボは205psを発生し、シャシーにはなんと電子制御式4WSが搭載される。

 1,815mmまで拡大された全幅により停める場所を選ぶのは必至だが、ワイドなプロポーションが生みだす曲面はCセグメントの中ではもっともグラマラスだ。精悍な印象のヘッドライトとリアコンビランプも悪くない。上質なインテリアを含め、カリカリのスポーツモデルというよりは、上質な大人のためのモデルという雰囲気を漂わせているのも僕の目にはプラスに映った。

 トランスミッションはデュアルクラッチ式で、段数は7速。発進直後や極低速域でも扱いづらさはなく、非常に滑らかな振る舞いだ。足回りはそれなりに固めてあるが、不快な突き上げやバタ付きはない。かといってフワフワした感じもなく、「硬めだがしっとりとした上質な乗り心地」に仕上がっている。

 4WSは60km/h(スポーツモード時は80km/h)までは逆相制御。つまりハンドルを左に切ると前輪は左、後輪は右に切れ、クルリと回る。それ以上の速度域では同相に切れ安定感を高める仕組みだ。たしかにコーナーでステアリングを切ると、なんの抵抗もなくノーズがクルッと向きを変える。感覚的にはホイールベースが300mmぐらい短くなったかのような動き。とくにタイトコーナーが連続するようなワインディングロードでの効果は絶大だ。一方、上手いなと思ったのが、制御を違和感を覚えないギリギリの線に留めているところ。元気なエンジンと切れ味のいいトランスミッションを含め、走りを楽しみたい人にとって強い説得力をもつモデルに仕上がっている。これで334万円は安い。

ルノー・メガーヌ

車両本体価格:3,340,000円(GT、税込)
全長×全幅×全高(mm):4,395×1,815×1,435
エンジン:ターボチャージャー付筒内直接噴射
直列4気筒DOHC16バルブ
総排気量:1,618cc
乗車定員:5名
車両重量:1,430kg
最高出力:151kW(205ps)/6,000rpm
最大トルク:280Nm(28.6kgm)/2,400rpm
駆動方式:前輪駆動

JEEP COMPASS
ジープ・コンパス

ジープの魂が宿るライトモデル

 ジープといえば言わずとしれたオフロードカーの元祖。1941年に軍用車両として投入され、戦後はスタイリッシュでタフなオフロードカーとして高い人気を保ち続けてきた。

 今回登場した新型コンパスは、そんなジープの血脈をライトな気分で味わえるモデルだ。生粋のジープファンからしたら、FF版が用意されているジープなんてジープじゃない! となるかもしれない。事実、オリジナル・ジープの正当な後継車であるラングラーと比べれば、コンパスは軟弱だ。しかし、SUVがこれほどマーケットで受け入れられている状況のなか、オフロード原理主義に閉じこもっていたらビジネスチャンスをみすみす失うことになる。多くのユーザーが求めるSUV像とジープらしさにどう折り合いを付けていくのか。問われているのはそこだ。

 そんな目で新型コンパスを眺めると面白いことに気付く。第一印象はベイビーグランドチェロキー。グランドチェロキーに魅力を感じつつ、サイズ面や価格面で購入に至らなかった人にとっては待ってましたという感じだろう。さらに注意深くみていくと、前後のオーバーハングが非常に小さいことに気付く。事実、悪路走破性に大きな影響を与えるアプローチアングルとデパーチャーアングルは、ライバルたちより明らかに小さい。僕はここにジープの魂を感じとった。一見軟弱に見えるモデルだが、オフロードカーの元祖としてわれわれには絶対に譲れないところがあるのだと。事実、コンパスのプロポーションは同クラスのSUVとは明らかに違う。車高の低いスポーツカーが本格的に見えるように、前後オーバーハングの短いコンパスもまた、本格的に見えるのである。

 荒れた路面でのラフな乗り心地には不満があるものの、2.4ℓエンジンはとても気持ちよく回るし、軽快なハンドリングも楽しい。数多あるコンパクトSUVのなか、個性の強さを重視するなら要注目の1台だ。

ジープ・コンパス

車両本体価格:4,190,000円(Limited)、3,230,000円(Sport)
*全て税込 *諸元値はLimited
全長×全幅×全高(mm):4,400×1,810×1,640
エンジン:直列4気筒 マルチエア 16バルブ
総排気量:2,359cc
乗車定員:5名
車両重量:1,600kg(D/Pサンルーフ付:1,630kg)
最高出力:129kW(175ps)/6,400rpm
最大トルク:229Nm(23.4kgm)/3,900rpm
JC08モード燃費:9.6km/ℓ
駆動方式:4輪駆動

ALFA ROMEO GIULIA
アルファ ロメオ・ジュリア

万人に愛されるパーフェクトカー

 うーん、なんか〝らしくない〟ような気がする。新型ジュリアをみてそう感じた。もちろん、縦型グリルをみればひと目でアルファロメオであることがわかるし、FR特有のロングノーズプロポーションはとても美しい。デザインの魅力度を純粋に評価すれば、かなりの高得点がつく仕上がりだ。しかし相手がアルファロメオだと、期待値の高さゆえ、カッコいい、美しいだけでは物足りなくなってしまう。たとえば155。最初みたとき、なんてカッコ悪いんだろう!と思った。そのことを控えめにデザイナーに打ち明けると「あなたが抱いている疑念は時が解決してくれるだろう」と。そして1年後、僕は155のオーナーになっていた。スパイダーやGTVもそうだ。カッコよさ、美しさに加え、歴代アルファロメオのデザインにはある種の「違和感」があり、それが得も言われぬ魅力を醸しだしていたのである。

 そんな観点から眺めると、ジュリアは美しすぎるのだと思う。これはおそらく、北米市場への再参入という、ブランド戦略の大変革が大きく関係しているのだろう。ヨーロッパを中心に〝好き者〟だけに売っていたブランドから、より多くの顧客にアピールするブランドへと変貌を遂げるためには、商品にもそれなりの特性が求められる。具体的には、ごく一部の人に気に入られるのではなく、多くの人に嫌われないことが重要。そしてそんな観点から評価すると、新型ジュリアの出来映えはパーフェクトだ。質感の高いインテリア、充実した安全装備、美しいデザインなどは、3シリーズやCクラスと比較検討して買う層に大いにアピールし、北米だけでなく日本においても成功の要因になるに違いない。

 そんななか、エンジンやハンドリングが含むエンターテインメント成分の大きさはさすがアルファ。高性能版のクワドリフォリオにも興奮させられたが、僕が推すのは2ℓ直4ターボを積むFRの「スーパー」だ。

アルファ ロメオ・ジュリア

車両本体価格:11,320,000円(税込)(QUADRIFOGLIO)
全長×全幅×全高(mm):4,635×1,865×1,435
エンジン:V型6気筒 DOHC 24バルブ
インタークーラー付ツインターボ
総排気量:2,891cc 乗車定員:4名
車両重量:1,710kg
最高出力:375kW(510ps)/6,500rpm
最大トルク:600Nm(61.2kgm)/2,550rpm
駆動方式:後輪駆動

文・岡崎五朗


Goro Okazaki

1966年生まれ。モータージャーナリスト。青山学院大学理工学部に在学中から執筆活動を開始し、数多くの雑誌やウェブサイト『Carview』などで活躍中。現在、テレビ神奈川にて自動車情報番組 『クルマでいこう!』に出演中。

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