モタスポ見聞録 vol.7 ホンダの恋模様

文・世良耕太

 「志半ばでマクラーレンと袂を分かつのは非常に残念」と、ホンダの八郷隆弘代表取締役社長はコメントした。

 ホンダとしてはマクラーレンと一緒にF1を戦いたいのだが、袖にされたのでは仕方ないといった悔しさがにじみ出ている。

 2015年に鳴り物入りで始まったマクラーレン・ホンダのF1参戦は、2017年シーズン限りで終了することが9月15日に発表された。鈴鹿サーキットで行われる日本GPを2戦後に控えた、第14戦シンガポールGPでの出来事である。マクラーレンは2018年にルノーからパワーユニットの供給を受ける旨を発表。一方、ホンダは来季からトロロッソにパワーユニットを供給すると発表した。トロロッソはホンダワークスの位置づけになる。

 現在、パワーユニットをF1に供給しているコンストラクターは4社で、メルセデス・ベンツ、フェラーリ、ルノー、ホンダである。ホンダを除く3社は自社設計のシャシーに自社開発のパワーユニットを載せて戦うワークスチームを抱えている。既存のチームにパワーユニットを供給する形態で参戦するのはホンダだけだ。それだけに、パートナーとの相性が非常に重要になる。2013年にF1復帰を決意した際、ホンダにとってマクラーレンは、またとないパートナーに映った。なにしろ、1988年から’92年にかけて、F1を席巻したコンビネーションだったのだから。

 長期低落傾向にあったマクラーレン側も、諸手を挙げてホンダを受け入れた。だが、ホンダはマクラーレンが期待するパフォーマンスを発揮することができなかった。不甲斐ない働きぶりにしびれを切らしたマクラーレンが、ホンダに離縁状を突きつけた格好だ。ホンダにすれば、「もう少し時間をくれれば」とほぞをかむ思いだったに違いない。

 マクラーレンがかつてのマクラーレンではなくなったのも、ホンダにとっては逆風だった。コンビが復活したときのマクラーレンは、黄金時代を知るロン・デニスがチームの実権を握っていた。ところが2016年にアメリカからザック・ブラウンが乗り込んで来ると、失脚。チームは新体制に移行した。経営者が替わると、有無を言わさず昼と夜ほどに方針が変わるのは、組織の大小や洋の東西を問わない。ホンダはトロロッソより前にザウバーと契約を結び、2018年からパワーユニットを供給すると発表した。だが、先方が新組織に移行して方針が変わったため(フェラーリを選んだ)、契約を白紙に戻さざるを得ない状況に追い込まれた。技術力ではなく政治力で負けた格好だが、それも含めてのF1参戦であり、脇の甘さを露呈した。

 レッドブルの姉妹チームでイタリアに本拠を置くトロロッソ(伊語でレッドブルの意味)はどうだろうか。ホンダとのコンビ結成の裏では、ホンダをF1に留まらせたいルール統括者(FIA)とテレビ放映権などの商業権管理者(リバティメディア)のサポートが働いたという。つまり、仲人の仲介があっての婚約だ。当事者同士に妙な思い入れがないほうが、案外うまくいくのかもしれない。

Kota Sera

ライター&エディター。レースだけでなく、テクノロジー、マーケティング、旅の視点でF1を観察。技術と開発に携わるエンジニアに着目し、モータースポーツとクルマも俯瞰する。

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