GSX-Rとは何か スズキ GSX-R1000R ABS

 「これがGSX-Rなのか?」走り出してすぐに違和感を覚えた。自分の知るかぎりGSX-Rと名の付くバイクは、荒々しくアグレッシブな印象があったからだ。

 1984年に400㏄から始まったGSX-Rは、油冷エンジンの750、1100はもちろんのこと、ケビン・シュワンツのRGV-Γと同じディメンションの’96年型R750や、’01年に登場したR1000に至るまで〝乗りこなしてみろよ〟と訴えてくるようなバイクばかりだった。特にR1000は、R750のエンジンをロングストローク化してトルクの増大とパワーアップを両立させるという、掟破りなやり方でレース界に革命を起こした存在でもある。乗り味もスリリングで、サーキット走行では常に後輪のスライドを意識しなければならないジャジャ馬だった。ところがフルモデルチェンジした新型GSX-R1000R ABSは、何もかもがマイルドかつジェントルで、GSX-Rらしくないと感じたのだ。

 8年ぶりにフルモデルチェンジを遂げた6代目のR1000R ABSは、スズキのモトGP技術によって開発された。3段階のエンジンマネージメントと10段階のトラクションコントロール、チェンジフィーリングを変更できるクイックシフトやブレーキング時の姿勢を安定させるブレーキ制御、ローンチコントロールまで装備する。中でもトラクションコントロールは秀逸で、一段階の違いでも介入の差が分かるほど。また新設計されたエンジンは、ショートストローク化されたことにより失った中低速トルクを、新しく開発された可変バルブシステムによって補っている。そしてフレームは、エンジンを強度メンバーにすることで従来よりも細く設計され、車体のしなやかさが増しているのだ。このGSX-Rは、今までのどの大型GSX-Rよりも乗りやすい。極端な言い方をすれば誰が乗ってもそこそこのペースで走れるはずだ。さらにポジションもコンパクトになり、足つき性まで向上している。

2014年のハヤブサに続いてGSX-R1000R ABSも国内仕様が発売された。国内仕様としてGSX-Rが販売されるのは19年ぶり。これまでも逆輸入車として入手できていたが、全国のスズキ販売店での購入が可能となり、保証やサービスを安心して受けられるメリットは大きい。海外仕様とは、スピードリミッターとETCの標準装備以外は全く同じ仕様になるが、欧州との計測方法の違いからカタログの最高出力の数値は異なっているという。

 以前までのR1000は、ザラつきのあるゴリゴリしたエンジンと、剛性の塊のような筋肉質な乗り味が身上だった。乗り手を選ぶとか扱いづらい、というのではなく、普通に走っているだけでチャレンジングな気持ちにさせる〝アドレナリンバイク〟だったのだ。歴代のR1000を何台も所有してきた編集部の神谷は、「新型は、スムーズすぎてGSX-Rらしくないですね」と、どこか不満気だ。かくいう自分もGSX-Rとは縁が深い。油冷18インチのR1100Jに始まり、R1000K1、R750K4と乗り継いできた。自分たちのような古くからのGSX-Rファンは、無意識のうちに「GSX-Rは、こうあるべき」と、決めつけてしまい、試乗会の当日は、新型のGSX-Rを消化できないでいた。

 しかしそれから数日が経ち、この記事について考えている時に気付いた。R1000R ABSは、正常進化したGSX-Rであると。200馬力近いパワーを持ち、装備重量が203㎏しかないバイクをまともに走らせるには、電子制御の助けが必要になる。新型のそれは、いたってニュートラルで不自然さを感じることは一切ない。その角の取れた仕上がりの良さをマイルドになったと勘違いしていた。エキサイトしたければ、電子制御の介入を減らすことで、いくらでも獰猛な顔を見せてくれるだろう。また質は変化したが、右手と後輪が直結したようなダイレクト感も健在だ。以前よりも硬質感が取れて柔軟性が増したので、フルバンクからでも躊躇なく開けていける。新型はGSX-Rらしい強気で積極的な走行を継承していたのだ。 今回のGSX-Rのモデルチェンジは、進化の度合いが大き過ぎて、理解するのに少し時間が掛かってしまった。R1000にこだわりを持つ神谷も、不思議なことに時間が経つにつれて新型の印象が徐々に良くなってきたという。いずれにせよ、GSX-R1000R ABSは、次の世代のGSX-Rへと間違いなくシフトしている。

文・神尾 成 写真・長谷川徹

GSX-R1000R ABS
車両本体価格:2,041,200円(税込)
エンジン:水冷4サイクル直列4気筒 DOHC4バルブ
総排気量:999cc
最高出力:145kW(197ps)/13,200rpm
最大トルク:117Nm(11.9kgf)/10,800rpm

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