岡崎五朗のクルマでいきたい vol.96 ブーム到来

 空前絶後のSUVブームである。その昔、クロカン四駆が流行った時期があったが、あれはあくまで麻疹のような流行現象。長続きはしなかった。

 しかし今度のSUVブームはどうやら本物になりそうだ。今年4月にはトヨタC-HRが国内販売台数トップを獲得。ヴェゼル、ハリアー、エクストレイル、CX-5なども健闘している。

 今後も日本でSUVは増えていくのか? 僕の予想はイエスだ。昔からSUV(ライトラック)が強かった米国では、2013年にSUVの販売台数が全乗用車を抜いた。米国と比べて小さいクルマが好まれる欧州でも、2015年にはセダンやハッチバックを抜きSUVがセグメント別のマーケットシェアで1位を獲得。世界的に見ても、販売台数の約25%をSUVが占めている。

 もちろんユーザーの嗜好は国や地域ごとに異なるが、C-HRの首位獲得という事実から考えて日本人がSUV嫌いであるはずもなく、ミニバン人気が高い分、SUV比率がまだ低い日本では逆に伸び代があるとさえ言える。さらに、各メーカーともSUV開発にますます力を入れてくる。こうした状況を冷静に分析すれば、今後もSUVは順調に増えていくと考えるのが自然だろう。

 加えて、SUV人気が一時的なブームでは終わらないと考えているもうひとつの理由が、いまのところ他に代わるものがないという事実だ。SUV最大の持ち味は実用性とカッコよさの両立。両極にスポーツカーとミニバンを置いて考えてみるとわかりやすいが、室内が狭いクルマはスタイリッシュで、広いクルマは非スタイリッシュというのがこれまでの常識だった。SUVはその古い常識を見事に覆してみせたジャンルなのだ。そのインパクトは絶大であり、北米ではミニバンとステーションワゴンがマーケットからほぼ駆逐されてしまったほど。重くて重心が高い故の走りや燃費の悪さも、最近ではほとんど無視していいほどになり、立体駐車場という日本特有の事情に対応するモデルも増えてきている。もし日本の多くのユーザーが「カッコよさ」を諦めていないなら(そうだと信じている)、SUVに心惹かれる人は今後も増えていくはずだ。


PEUGEOT 3008
プジョー・3008

デザインと実用性を兼ね備えたSUV

 プジョー3008で真っ先に惹かれるのはなんといってもデザインだろう。コンパクトなキャビン、大きなタイヤ、グラマラスなフェンダー、短いオーバーハングといった「カッコいいクルマ」の基本フォルムを忠実に押さえつつ、ディテールにもデザイナーの美意識が濃密に注入されている。なかでもセンスのよさを感じるのがクロームの使い方だ。ボディサイド下部の湾曲したプロテクターは、その独特の形状によってコークボトル状の「くびれ」を演出。フロントピラーからルーフエンドスポイラーまで続くクロームは、視覚的な重心を下げると同時に、走っている姿にスピード感を与える。ほぼ同時期に登場したティグワンが「SUVらしさを強めるため(VW)」にスクエア形状になったのとはまるで対照的だ。もっとも、SUVにスポーティーなルックスを与えるのは最近の流行であり、決して珍しいものじゃない。

 3008のアドバンテージは、デザインだけでなく実用面にもきちんと配慮が行き届いているところだ。後席と荷室はファミリーユースにも十分対応するし、視界もいい。このあたりは、2人乗車前提のマツダCX-3やトヨタC-HRと明らかに異なる部分だ。加えて、3列シートが欲しい人には、3008のストレッチ仕様ともいうべき5008が近々追加される。

 質感と先進性にこだわったというインテリアも必見だ。フル液晶メーターをはじめとし、500万円超クラスのライバルにも負けない仕上がりは見ればきっと驚くはず。フランス車の弱点だった自動ブレーキなど先進安全機能もかなり強化された。

 走りは軽快かつしなやかであり、快適性と楽しさのバランスポイントはそうとう高いレベルにある。ガソリンとディーゼルを選べるが、距離が伸びる人でなければより軽快感の強いガソリンターボをオススメする。いずれにせよ、300~400万円台で買えるSUVのなか、いまもっとも魅力的な一台だ。

プジョー・3008

車両本体価格:3,540,000円~(税込、3008 Allure)
全長×全幅×全高:4,450mm×1,840mm×1,630mm
車両重量:1,460kg 定員:5名
エンジン:ターボチャージャー付直列4気筒DOHC
総排気量:1,598cc
最高出力:121kW(165ps)/6,000rpm
最大トルク:240Nm/1,400~3,500rpm
JC08モード燃費:14.5km/ℓ
駆動方式:前輪駆動

DAIHATSU MIRA e:S
ダイハツ・ミラ イース

クルマ本来の魅力を重視

 ハイブリッドやEVだけがエコカーじゃないという信念のもと「第3のエコカー」というキャッチフレーズとともに登場したミラ イース。2011年デビューの初代は軽自動車の燃費競争が激化するきっかけをつくったモデルで、アルトと繰り広げた熾烈な燃費競争は記憶に新しい。

 なにしろ、カタログ燃費はデビュー当初の30km/ℓから最終的に35.2km/hまで伸びたのだ。その後継モデルとなれば当然、さらに燃費を引き上げてくることが予想されたのだが…新型のカタログを見て驚いた。リッターあたり35.2km/hという数字は先代と同じ。80㎏にも及ぶ過激なダイエットをしてきたにもかかわらず、先代を超えていないのだ。

 開発責任者に聞いたところこんな答えが返ってきた。「数値のみを追えば先代を超えることはできましたが、お客様が求めているのはカタログ燃費ではなくもっと別のものだ考えました。具体的には内外装の質感や走りの気持ちよさ、運転のしやすさ、実用燃費といったクルマ本来の魅力を重視しました」

 僕はこの連載でことあるごとに「カタログ燃費の過度な追求はクルマ本来の魅力をスポイルする」と書いてきた。そんな考えにメーカーが同調してくれたのはとても嬉しいことである。そこで気になるのは、新型ミラ イースにクルマ本来の魅力がどれほど備わっているか、という点だ。

 ヘッドライトは内部までこだわったきれいなデザインに仕上がっているが、全体を眺めるとまだちょっと保守的過ぎる。先代よりはたしかに進化しているが、若い人が見て「カッコいい! 乗りたい!」と飛びつくようなレベルにいまだ達していないのは残念なところだ。とはいえ、デジタルメーターを配したインテリアは悪くないし、走りもずいぶん活発になった。なにより軽自動車の本質である使い勝手と経済性を正面から追求したコンセプトと技術には大きな拍手を送りたい。

ダイハツ・ミラ イース

車両本体価格:939,600円(税込、L“SA Ⅲ”/2WD)
*北海道地区は価格が異なります。
全長×全幅×全高:3,395mm×1,475mm×1,500mm
車両重量:650kg 定員:4名
エンジン:水冷直列3気筒12バルブDOHC横置
総排気量:658cc
最高出力:36kW(49ps)/6,800rpm
最大トルク:57Nm(5.8kgm)/5,200rpm
JC08モード燃費:35.2km/ℓ
駆動方式:前輪駆動

LAND ROVER DISCOVERY
ランドローバー・ディスカバリー

プレミアム感に磨きがかかった多用途SUV

 SUVメーカーの草分けであるランドローバーには、洗練性を追求した「レンジローバー」と、多用途性を追求した「ディスカバリー」という2つのラインがある。加えてそう遠くない将来には頑強性を追求した「ディフェンダー」が加わる。

 それら3つのラインのベースにある特徴として彼らは「Capabiolity with Composure」という言葉を使っている。直訳すれば「落ち着き払った能力」。日本法人は「揺るぎない能力」という上手い意訳をしているが、いずれにせよ、悪路走破性を含め、SUVとしてのハードウェアにはとことんこだわり抜くというのが彼らの基本姿勢である。

 その言葉通り、新型ディスカバリーは大きな進化を果たしてきた。悪路走破性はディフェンダーに譲るかと思いきやそんな素振りはまったくなく、高度な電子制御式4WDに加え、電子制御式エアサスペンションを全車に標準装備。渡河性能は従来の700mmから900mmへと増加し、しかもドアミラー部のセンサーによって水深をリアルタイマーで知らせてくれるという凝り様だ。もちろん、本格オフローダーと呼ぶに相応しいデパーチャー&アプローチ&ランプブレークオーバーアングルが備わる。

 そんな基本性能に加え、新たな価値として提案してきたのが「プレミアム」の磨き込みだ。深みのある塗装、贅を尽くしたインテリアなど、そのクオリティはレンジローバーに迫る勢い。上級グレードに付く電動式の3列シートもちょっとすごい。そして走らせてみれば、乗り心地、静粛性、ハンドリングなど、あらゆる点で先代を大きく凌ぐ仕上がりを見せつける。とくにV6ディーゼルエンジンの仕上がりは抜群だった。サイズと高くなった価格さえ許容範囲ならオーナー満足度はかなり高くなるだろう。販売現場ではレンジローバー・スポーツと迷う人が多いだろうが、乗り心地とサードシートの広さを重視するならディスカバリーに軍配があがる。

ランドローバー・ディスカバリー

車両本体価格:7,990,000円~
(税込、DISCOVERY HSE/3.0リッターTd6 V6ターボチャージド・クリーンディーゼル)
全長×全幅×全高:4,970mm×2,073mm×1,888mm
エンジン:3.0リッターTd6 V6ターボチャージド・クリーンディーゼル
総排気量:2,993cc 最高出力:190kW(258ps)
最大トルク:600Nm(61.2kgm) 駆動方式:四輪駆動

VOLVO XC60
ボルボ・XC60

“らしさ”が戻ったベストセラーモデル

 ボルボのベストセラーモデル、XC60がフルモデルチェンジした。日本導入は秋頃の予定だが、スペインで開催された国際試乗会に参加できたので、ひとあし先にインプレッションをお届けしよう。

 幅は1,900mmをわずかに超えてしまったが、長さはXC90より約30cm短く、5ナンバー枠に収まる。使い勝手抜群とは言えないけれど、都心部でもなんとか実用的に使えるギリギリのサイズに踏みとどまってくれたのは朗報だ。デザインは、ひと目でXC60とわかるという意味ではキープコンセプトだが、全高が低く、ノーズが長くなった分、スポーティーな印象はかなり強まった。ショルダーラインの後端をスッと持ち上げているのもスポーティネスの表現。だが、この部分だけはいまだ馴染めないでいる。そのまま素直にリアエンドまで通したほうがボルボらしいし、きれいだったのでは? と思うのだ。もしかしたら、ミニXC90に見えてしまうのを嫌った結果なのかもしれない。ただ、インテリアは最高に素敵だ。インパネ中央に縦型の大型タッチスクリーンを置きスイッチ類を大幅に減らすというアイディアはXC90と同じだが、XC60独自の雰囲気作りがしっかりできているのがいい。それでいて各部の質感はXC90とほぼ同等。つまり、クラストップレベルの仕上がりということだ。

 他のボルボ同様、エンジンはすべて2L直4ターボで、出力違いのガソリンとディーゼルを用意。主に試乗したのはガソリン仕様トップモデルのT6(320ps)だったが、速さと扱いやすさと快適性の高度なバランスが実に心地よいドライブを約束してくれた。それ以上に感心したのが乗り心地のよさ。一時期スポーティー方向のハンドリングに振れていたボルボだが、ここにきて再びかつてのボルボらしいマッタリ感を身につけてきた。その背景に見え隠れするのは、ドイツ車の背中を追う時期はもう終わったという彼らの自信だ。

ボルボ・XC60

XC60 T6 AWD
*諸元値は欧州仕様です
全長×全幅×全高:4,688mm×1,902mm×1,658mm
エンジン:2.0リッター直列4気筒DOHC 16バルブ ターボ+スーパーチャージャー付
総排気量:1,969cc
最高出力:235kW(320ps)/5,700rpm
最大トルク:400Nm/2,200~5,400rpm
駆動方式:4WD

文・岡崎五朗


Goro Okazaki

1966年生まれ。モータージャーナリスト。青山学院大学理工学部に在学中から執筆活動を開始し、数多くの雑誌やウェブサイト『Carview』などで活躍中。現在、テレビ神奈川にて自動車情報番組 『クルマでいこう!』に出演中。

定期購読はFujisanで