岡崎五朗のクルマでいきたい vol.94 ミニのあり方

文・岡崎五朗

 モデルチェンジの度に、一部の人から「こんな大きいクルマ、ミニじゃない」と言われ続けてきたミニ。たしかに、全長3m、全幅1.4mのクラシック・ミニと比べれば、現代のミニはかなり大きい。

 けれど、50年以上前と現代では衝突安全基準も違うし、ユーザーニーズも違う。ましてや、クラシック・ミニ信者が大きすぎると批判する現行ミニだって全長は3835㎜足らず。トヨタのアクアより依然として160㎜も短いのだから、大きすぎるという批判はいささか的外れだろう。

 一方、クラブマンやクロスオーバーはたしかに大きい。しかし現代のミニはライフスタイルカーであり、ライフスタイルブランドでもある。より多くの顧客を獲得するためには、家族でゆったり乗れるサイズの商品が必要であることに論はまたない。需要がある以上、クラブマンもクロスオーバーもあっていい、というのが僕の考えだ。

 ただし、ユーザーが求めるからといって大きなものばかりに手をつけていたら、やがてブランドとしての立ち位置はぼやけてしまうだろう。大きいのを作ってもいいが、同じぐらいの情熱をもって、ミニの原点である小さいモデルも作るべきだと思うのだ。そこで思い出すのが、2011年のジュネーブショーで発表され大きな話題となったロケットマン。全長3.4mというボディは現行ミニよりさらに小さく、まさにクラシック・ミニを想起させるサイズ感だった。BMWも商品化を真剣に検討していたが、グループ内にロケットマンに適したサイズのプラットフォームがないため計画は凍結されているという。

 ロケットマンが発売されれば大人気になるのはまず間違いないだけに惜しい話である。ん? ちょっと待てよ。BMWは次期スポーツカーをトヨタと共同開発している。ならばトヨタグループのダイハツから軽自動車のプラットフォームを入手してロケットマンを作れないものか? もちろん、ミニが望む性能に仕上げるには改修も必要だろうが、不可能ではないはず。もしも日本の技術を活用した小さいミニが登場したとしたら、これはもうそうとうワクワクするハナシだと思いませんか?


MINI CROSSOVER
ミニ・クロスオーバー

2ℓディーゼルの最大ミニ

 本国名カントリーマン、日本名クロスオーバーは、ミニの現行ラインアップのなかでいちばん大柄なモデルだ。つい最近まではクラブマンが最大のミニだったが、新型クロスオーバーの登場によってその座は再びクロスオーバーへと返還された。

 サイズは、長さ4,315mm、幅1,820mm、高さ1,595mm。なかでも全長が先代に対し約20cmも伸びた点に注目したい。これにより後席と荷室はグンと大きくなり、5ドア版ミニとの差別性はより明確になった。サイズ的に近いクラブマンとの比較においても、全高が高い分、積載性でのアドバンテージは明らか。エクステリアデザインもSUVテイストを強めてきた。要するに、家族でキャンプにいくような使い方をする人にとって嬉しい機能とテイストを盛り込んだのが新型クロスオーバーというわけだ。

 日本仕様のエンジンは150psと190psの2ℓディーゼルのみで、ガソリンエンジンの用意はない。聞けば先代の9割がディーゼルだったということで、ならばいっそのことすべてディーゼルにしてしまおうという判断だろう。価格は40万円ほど上がったが、先進安全装備を標準装備してきたことを考えると、実質的な値上げ幅はさほど大きくない。それどころか、中身の充実ぶりを考えるとコストパフォーマンスはむしろ向上したと言ってもいいだろう。具体的には、インテリアの質感と乗り味の進化が注目ポイント。先代のインテリアはシンプルといえば聞こえはいいが、細かい部分の質感には割り切りを感じた。ミニのなかでもっとも大きいサイズでありながら、質の面では小さいミニに明らかに負けていたのだ。その点、新型のインテリアはプレミアム領域に片足を突っ込んでいる。ミニらしいダイレクト感を残しつつ、静粛性と乗り心地を大幅に向上させてきたのも朗報だ。SUVブームを追い風に、新型クロスオーバーは先代以上の人気を獲得するに違いない。

ミニ・クロスオーバー

車両本体価格:4,830,000円~(税込、THE NEW MINI Cooper SD Crossover ALL4.)
全長×全幅×全高:4,315mm×1,820mm×1,595mm
車両重量:1,630kg 定員:5名
エンジン:ディーゼルエンジン直列4気筒MINIツインパワーターボ
総排気量:1,995cc
最高出力:140kW(190ps)/4,000rpm 最大トルク:400Nm/1,750~2,500rpm
JC08モード燃費:20.8km/ℓ 駆動方式:前輪駆動

LAND ROVER RANGE ROVER
EVOQUE CONVERTIBLE
ランドローバー・レンジローバー
イヴォークコンバーチブル

世界唯一のSUVオープン

 空前のSUVブームを背景に各社競い合うようにニューモデルを投入しているが、屋根を切り取ってオープンにしてしまうなんてクルマはイヴォーク・コンバーチブル以外にない。正確には、過去日産が米国でムラーノのオープンモデルを販売していたが、現在新車で手に入るSUVのオープンカーはこいつだけ。そもそもイヴォークは5ドアモデルの他に3ドアモデルをラインアップする尖ったモデルだが、コンバーチブルの投入によってその尖り具合にはさらに磨きがかかった。

 いまやマセラティやベントレーまでもがSUVを作る時代だが、イヴォーク・コンバーチブルの目立ち度はラグジュアリーブランドのSUVに負けていない。価格はベースとなったクーペより50万円弱高いが、誰もが二度見するほどの特別感と存在感が50万円弱の追加投資で手に入ると考えれば安いものである。

 もちろん、イヴォーク・コンバーチブルの魅力は目立つことだけじゃない。光と風と戯れるという、オープンカーの原点においてもその実力は上々だ。たとえば風の巻き込み。4シーターオープンとしては風のコントロールがしっかりできているため、高速道路でも快適なオープン走行を楽しめる。さすがに長時間走行では閉めたくなるが、小一時間程度ならオープンでもまったく嫌にならない。風の巻き込みの少なさは冬場の寒さに対しても強みを発揮する。2月に雪の中をオープンにして走ったが、強力なヒーターの助けもあって最高に気持ちのいいスノードライブを経験できた。

 オープン化したにもかかわらず、ボディは驚くほどガッチリしている。それと引き替えにウェイトはクーペより260㎏も重くなったが、パンチのある2ℓターボと9速ATの組み合わせは約2トンのボディを力強く走らせる。一見するとキワモノだが、なかなかどうしてきわめてマトモなハードウェアを備えているのがこのクルマの美点だ。

ランドローバー・レンジローバー
イヴォークコンバーチブル

車両本体価格:7,650,000円~(税込、HSE DYNAMIC CONVERTIBLE)
全長×全幅×全高:4,385mm×1,900mm×1,650mm
車両重量:2,020kg 定員:4名
エンジン:Si4 2.0リッター ターボチャージド・ガソリンエンジン
総排気量:1,998cc
最高出力:177kW(240ps)/5,500rpm
最大トルク:340Nm(34.7rpm)/1,750rpm
JC08モード燃費:9.6km/ℓ
駆動方式:四輪駆動

VOLKSWAGEN TIGUAN
フォルクスワーゲン・ティグアン

VWらしい直球勝負のSUV

 VWに限らず、最近は超キープコンセプトなモデルチェンジが多いドイツ車のなかにあって、新型ティグアンは「変わり映えする」モデルチェンジをしてきた。先代はとちらかというと乗用車的で、SUVとしては小さく見えるデザインを採用していた。それに対し、新型は直線基調の角張ったデザインとすることで、正統派SUVらしさを強めてきた。スペックを見ると、全長は70㎜、全幅は30㎜拡大され、全高は35㎜低くなっているが、数字から受ける印象以上に威風堂々としてるし、後席スペースと荷室容量も拡がった。SUVマーケットが拡大するなか、奇をてらわずド真ん中に直球を投げ込むのがVWの狙いだったのだろう。もうちょっと遊び心が欲しいなと思う人もいるだろうが、クリーンで端正、かつ機能性の高さをストレートに表現するデザインこそVWのお家芸である。

 インテリアにも同じことが言える。上級グレードには液晶メーターを採用しているが、グラフィックで遊んでみようなどという気配はまったくなく、視認性と機能性をプライオリティの上位に置いた仕上げ。スイッチなど細部の仕上げのよさと椅子の優秀性も相変わらずのVW流だ。そんななか残念だったのが上を向いたステアリング。ゴルフと同じMQBプラットフォームを使っているのだが、着座位置が上がった分、ステアリングに上向きの角度を付けて辻褄を合わせたのだろう。ミニバンからの乗り換えなら気にならないが、乗用車から乗り換えると、なんかしっくりこないなと感じる可能性は高い。

 1.4ℓのガソリンターボは必要にして十分な動力性能と上質な回転フィールを備えている。組み合わせる湿式6速DSGの振る舞いも好印象。飛び抜けた部分はないものの、静粛性、乗り心地、直進安定性、コーナリングを含め、ハードウェアの仕上がりに弱点らしい弱点は見つからない。SUVに質実剛健さを求めるならマークしておくべきモデルだ。

フォルクスワーゲン・ティグアン

車両本体価格:4,632,000円~(税込、TSI R-Line)
全長×全幅×全高:4,500mm×1,860mm×1,675mm
車両重量:1,540kg 定員:5名
エンジン:直列4気筒DOHCインタークーラー付ターボ
 
総排気量:1,394kg
最高出力:110kW(150ps)/5,000-6,000rpm
最大トルク:250Nm(25.5rpm)/1,500-3,500rpm
JC08モード燃費:16.3km/ℓ
駆動方式:前輪駆動

PORSCHE PANAMERA
ポルシェ・パナメーラ

911に近づいた2代目パナメーラ

 新型パナメーラを見たら、誰もが「前のよりうんとカッコよくなったね」と思うだろう。なぜか? サイドからリア周りのデザインがより911的になったからだ。最初に見たときは、後席の頭上空間を犠牲にしたのでは?と思った。しかし実際に乗り込むと、不思議なことに頭上空間はちゃんと確保され、身長180㎝級の大男でも頭がつかえてしまうことはない。実は、プラットフォームを新規開発したことでリアシートの着座位置が下がり、結果として十分な頭上空間と流麗なルーフラインの両立が可能になったのだ。

 SUVやセダンに進出したいまも、ポルシェの核はスポーツカー、それも911にある。911へのオマージュが強ければ強いほど商品の魅力は自動的に高まる。そういう意味で新型パナメーラの商品力は先代とは比べものにならないほど高まった。

 もちろん、ポルシェのことだからパフォーマンスにも抜かりはない。もっとも性能の高いパナメーラ・ターボはニュルブルクリンクで7分38秒という驚異的なラップタイムを叩きだした。これは997の高性能モデルであるGT3RSとほぼ同じタイム。強力なエンジンに加え、安心して踏んでいける優れたシャシーとブレーキがなければ絶対にこのタイムは出ない。実際、新型パナメーラはきわめて快適な4ドアサルーンでありながら、状況さえ許せば250km/hまであっけなく加速し、コーナーではまるでスポーツカーのような切れ味と安心感を提供する。

 メルセデスならAMG、BMWならMと、ライバルも高性能セダンをもっている。しかしそれらはあくまで速いセダンであってスポーツカーではない。それに対し、パナメーラの出発点はスポーツカーにある。そう、スポーツカーのようなセダンではなく、セダンのようなスポーツカーであることがパナメーラの魅力であり、またライバルたちとの決定的な違いなのだ。

ポルシェ・パナメーラ

車両本体価格:23,270,000円~(税込、パナメーラ ターボ)
全長×全幅×全高:5,049mm×1,937mm×1,423mm
車両重量:1,540kg
定員:5名
エンジン:V8ツインターボ
総排気量:3,996cc
最高出力:404kW(550ps)/5,750-6,000rpm
最大トルク:770Nm/1,960-4,500rpm
駆動方式:四輪駆動

Goro Okazaki

1966年生まれ。モータージャーナリスト。青山学院大学理工学部に在学中から執筆活動を開始し、数多くの雑誌やウェブサイト『Carview』などで活躍中。現在、テレビ神奈川にて自動車情報番組 『クルマでいこう!』に出演中。

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