F1ジャーナリスト世良耕太の知られざるF1 PLUS vol.24 ’17年型マシンの特性

文・世良耕太

 2017年のF1世界選手権に参戦する10チームの新型マシンが出そろった。

 そう聞いて「あれっ?」と思った人がいるかもしれない。’16年は11チームが参戦したが、チームのランキングで最下位になったマノーが資金面で立ち行かなくなり、惜しまれつつも消滅したからだ。

 存続しているが、体制ががらりと変わったチームもある。マクラーレン・ホンダだ。マクラーレンはロン・デニスが中心となって80年代初頭から組織を引っ張り、名門チームへと押し上げた。そのデニスが’16年11月にチームを離れ、新体制に移行。新しい体制に移行したことは、新型マシンのカラーリングや名称に表れている。

 これまでの流れを受け継いだ場合、マクラーレンの新型マシンはMP4-32と名付けられるはずだった。デニスがマールボロの支援を受けて立ち上げた「マールボロ・プロジェクト4」に由来するネーミングだ。デニスが去ってその名称を使う必要がなくなり、というより脱デニス体制であることを外に向けてアピールする意味もあり、名称を変更した。新名称はMCL32である。

 昨年までのマクラーレンは長らくグラファイトグレーを基調にしたカラーリングだったが、新生マクラーレンはサテンブラックとタロッコオレンジ(タロッコはイタリア産オレンジの一種)を組み合わせ、これにグロスホワイトを差し込んでいる。ホワイトはホンダがレースで好んで用いる色を意識したものだろうか。一方、オレンジは原点回帰を意味している。チーム名称にもなっているマクラーレンの創設者、ブルース・マクラーレン(1937-1970)がニュージーランド生まれであることに由来する。ニュージーランドのナショナルカラーはオレンジで、60年代を中心にマクラーレンのレーシングカーを彩っていた。

 ルノーは’16年に車体とパワーユニットをひとつ屋根の下で開発するワークスチームとして復帰したが、復帰決定のタイミングから、’15年型マシンをベースに戦わざるを得なかった。1年で2~3秒分の進化を遂げるF1では大きなハンデだった。新体制でイチから作り上げたのが’17年型のR.S.17だ。’16年はランキング9位に沈んだが、’17年は「5位を目指す」と意気込む。控え目な目標に感じるかもしれないが、実現すればジャンプアップである。それほどに競争は激しいということだ。

 変わったのは体制や色や名称だけではない。マシン自体が大きく変わっている。車体の幅は’16年までの1,800mmから2,000mmになり、タイヤは幅広になった。空気の圧力差で車体を地面に押しつけるダウンフォースとタイヤのグリップが大きくなったことでコーナリングスピードが上がり、前面投影面積が増えて最高速がやや落ちる。これが、’17年型マシンの特性だ。総合すると、ラップタイムは’16年に比べて一気に3~5秒も速くなる。

マクラーレン・ホンダはカラーリングを一新した。正面から見ると、ほとんどオレンジに見える。ドライバーはフェルナンド・アロンソとストフェル・バンドーンのコンビ。’15年GP2チャンピオンのバンドーンは’16年をスーパーフォーミュラで過ごし、念願のフル参戦F1デビューを飾る。復帰3年目を迎えるホンダは、過去2シーズンの経験を生かしてパワーユニットを新規に開発。競合との差を一気に詰めるのが目標だ。モーターアシストとエンジンを合わせた総出力は900馬力を超える。

Kota Sera

ライター&エディター。レースだけでなく、テクノロジー、マーケティング、旅の視点でF1を観察。技術と開発に携わるエンジニアに着目し、モータースポーツとクルマも俯瞰する。

※「F1ジャーナリスト世良耕太の知られざるF1+」は、今回で最終回となります。


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