岡崎五朗のクルマでいきたい vol.84 BMWのテーマパーク

 特集原稿でも少し触れたが、お台場にオープンした「BMWグループ東京ベイ」は度肝を抜く規模とクォリティをもつ施設だ。

 2万7,000平方メートルの敷地にはBMWとミニの巨大ショールームの他、カフェ、同時通訳ブースを備えた300人収容のカンファレンスルーム、簡単な運転トレーニングができるドライビングエリアなどを併設。展示車はBMWが28台、ミニが11台、BMWモトラッドが10台。さらに圧巻は80台という試乗車の数だ。BMWとミニの全ラインアップに加え“M”や“i8”など、普通はなかなか試乗できない高価なモデルも用意されている。また、同じ車種でもエンジン毎に試乗車があるため、実際に乗り比べて自分に合ったグレードを選べるのがいい。

 広さだけでなく、ショールームの質も驚くほど高い。たとえば“M”モデルのコーナーでは天井に埋め込んだ棒状の照明の長さに変化を付け、映り込んだライトの長短によって展示車にスピード感を与える工夫がされている。ミニのスペースも凝りに凝っていて、壁には表面をバーナーで焼いた焼き杉材を使用。ブランドカラーである黒をベースにしつつ、和のテイストを表現している。豊富なボディカラーや内装など、様々なオプションをワンタッチで選び、それをまるで実車を眺めているような高い解像度で大型スクリーンに映し出すシステムも興味深かった。

 最後の仕上げが人。セールスの方は「オープン直後で慣れていないので十分なおもてなしをできず申し訳ありません」と言っていたが、受付の女性も試乗スタッフも素晴らしい対応だった。ハード、ソフトの両面がここまでくるともはやディーラーとかショールームの域を超え、BMWワールドを体験するテーマパークにいるような気分になる。正直、こんなにワクワクするとは思っていなかったし、同行した友人は真剣にミニ・コンバーチブルの購入を検討しはじめたほど。クルマの見せ方、売り方、ブランド戦略など、いろいろなことを考えさせられた。基本は販売店なので買う気がゼロなら遠慮すべきなのだろうが、他のメーカーやインポーターの人に会うたびに、公式でもお忍びでもいいので偵察にいくべきですよとおすすめしている。


BMW 225xe ACTIVE TOURER
BMW・225xeアクティブツアラー

FF+リアモーター駆動の4WD

 少しでもすき間があれば、ためらうことなく埋めるモデルを出す。最近のBMWの戦略は大胆だ。これだけモデル数を増やすとブランドイメージが薄まりやしないかとハラハラしながら見ているのだが、当のBMWはまったくもってお構いなし。なかでも2シリーズアクティブツアラーとグランツアラーには驚いた。前者が2列シート、後者が3列シートなのだが、まさかBMWがFFのコンパクトミニバンを出すなんて数年前までは考えられなかったこと。販売台数を伸ばすためにはなんでもやってやるといった攻めの姿勢がヒシヒシと伝わってくる。実際、アクティブツアラーとグランツアラーは予想以上によく売れているという。

 今回試乗したのはアクティブツアラーに新たに加わったPHVの225xeアクティブツアラー。3ケタ数字の下二桁は出力レベルを示し、続くxは四輪駆動、eはエレクトリックドライブ=電動車であることを示す。後席背後にリーフの約3分の1にあたる7.7KWHのバッテリーを搭載する都合上、シートスライドは省略され、荷室も若干犠牲になっているが、それでも400ℓという十分な容量を確保しているのは嬉しい。

 満充電ならモーターだけで最大42.4㎞走れるとのことだが、実際は25~30㎞程度。しかし買い物や送迎といった日常使いならそれで十分。モーター走行時の動力性能も必要にして十分なレベルを確保している。充電の手間をいとわず、かつ遠出をしなければガソリンスタンドに行く機会はほとんどなくなりそうだ。エンジン+モーターの両方で走っている際の気持ちよさ、ハンドリングの仕上がりも上々。ただし遠出がメインなら、ディーゼルを積んだ218dのほうが燃費はいいし、価格も約100万円安い。500万円を超えるとなるとi3の存在が気になってくるのも事実だが、優れた実用性と未来感を兼ね備えたBMWとして要注目のモデルだ。

前輪はエンジン、後輪は電気モーターのみで駆動する4輪駆動システムで、クルマの使用状況に応じて最適なトラクションを実現。高速道路など一定の速度を超えた場合は、内燃エンジンのみが駆動し、追い越しなどの加速時は、電気モーターがエンジンをアシストして最大限のパワーを発揮する。エアコンやヒーターなどを乗り込む前にスマホで遠隔作動させておく機能も搭載した。

BMW・225xeアクティブツアラー

車両本体価格:4,880,000円
(225xe Active Tourer Luxury、税込)
全長×全幅×全高(mm):4,350×1,800×1,550
エンジン:直列3気筒DOHC 1.5ℓ 総排気量:1,498cc
【エンジン】最高出力:100kW(136ps)/4,400rpm
最大トルク:220Nm(22.4kgm)/1,250~4,300rpm
【モーター】最高出力:65kW(88ps)/4,000rpm
最大トルク:165Nm(16.8kgm)/3,000rpm

HONDA ODYSSEY HYBRID
ホンダ・オデッセイ ハイブリッド

低重心に磨きがかかったハイブリッド

 オデッセイに新たにハイブリッドが加わった。まず全力で誉めたいのがパッケージングで、ハイブリッド化されても最大の魅力である超低床設計がほとんどスポイルされていない。スライドドアを開けた瞬間、床の低さにはある種の感動を覚えるほど。実際、エスティマ・ハイブリッドと比較すると全高は75㎜も低いのに室内高は50mmも高い。最低地上高はエスティマのほうがやや高いが、それを考慮に入れても床は10㎝以上薄い計算になる。この魔法のような低床性は、薄型燃料タンクや小型燃料ポンプ、楕円形の排気管、スリムなフレーム形状、前席下にきれいに収めたハイブリッド用バッテリーなど、ありとあらゆる部分に工夫を凝らした結果だ。

 低全高、超低床プラットフォームが生みだす重心の低さはオデッセイにミニバンとは思えない走りをもたらしているが、床下にバッテリーを搭載したハイブリッドはさらに低重心が進み、ワインディングロードや高速道路での安心感はとても優秀だ。切り始めからスムーズかつ正確に応答するステアリング、内側が沈み込むような安定したロール特性、ピタッと路面に張り付くような接地感は、運転の楽しさだけでなく、高い安心感と快適性を同乗者にも与える。いわゆる上級ミニバンと呼ばれるジャンルでは、輸入車を含めもっとも乗用車に近い感覚で乗っていられる。

 ノーマルの2.4ℓに対し、ハイブリッドが積むのは2ℓエンジン。ゆったりと走っている際には静かでスムーズなのだが、アクセルを深めに踏み込むとエンジン回転数がポーンと上がりノイズが増えがち。燃費やコストを考えれば仕方のない面もあるが、1.9トン近いウェイトを考えるとモーターのトルクをさらに強化するか、もしくは2.4ℓのままハイブリッド化したほうが運転感覚の面ではいい結果を生んだと思う。とはいえハイブリッドの追加で販売台数は急上昇中とのこと。硬めの乗り心地が改善されたのも朗報だ。

アコード ハイブリッドにも搭載されているハイブリッドシステム「SPORT HYBRID i-MMD」をホンダの上級ミニバンとして初搭載。高効率化を徹底的に追求し、新開発のモーターは従来比約23%の小型軽量化を図りつつも、高トルク・高出力化を実現した。走行モードは3種類。先進の安全運転支援システム「Honda SENSING」は全グレードに適用される。

ホンダ・オデッセイ ハイブリッド

車両本体価格:4,000,000円
(HYBRID ABSOLUTE・Honda SENSING EXパッケージ、税込)
全長×全幅×全高(mm):4,830×1,820×1,685
エンジン:水列直列4気筒横置総排気量:1,993cc
乗車定員:7名 車両重量:1,880kg
【エンジン】最高出力:107kW(145ps)/6,200rpm
最大トルク:175Nm(17.8kgm)/4,000rpm
【モーター】最高出力:135kW(184ps)/5,000~6,000rpm
最大トルク:315Nm(32.1kgm)/0~2,000rpm
JC08モード燃費:24.4㎞/ℓ 駆動方式:前輪駆動

BMW MINI Cooper D
BMW・ミニ クーパー D

ディーゼルMINI、10モデルに拡充

 BMW同様、ラインアップの拡大を積極的に推し進めているミニ。オリジナルとも言うべき3ドアに加え、5ドアとコンバーチブルがあり、その上には少し大きめのボディと観音開きのバックドアをもつクラブマン、さらにはSUVのクロスオーバーとその派生車種のペースマンの6車種をラインアップしている。加えてエンジン違い、MTとATなどを合わせれば、グレード展開は膨大な数になる。

 そこに今回加わったのがディーゼルエンジン搭載モデル。従来はクロスオーバーとペースマンにしかディーゼルを積んでいなかったが、3ドア、5ドア、クラブマンへと搭載を一気に拡大したことで、コンバーチブル以外のすべてのミニでディーゼルを選べるようになった。しかも、1.5ℓ3気筒と2ℓ4気筒の2種類を同時に設定。ガソリンのみのときでもONEにするかクーパーにするかクーパーSにするか、それともJCWにするか悩ましいところだったが、2種類のディーゼルが加わったことで購入者はさらに悩まされることになる。日本での販売台数を考えれば効率が悪すぎなのでは? と思う一方、設定のないディーゼルのMTにも乗ってみたかったなぁと思ったり。このあたりは難しい問題だ。

 試乗したのは1.5ℓ3気筒を積む3ドアのクーパーD。スペックは116ps/270Nmと、最高出力ではガソリンのクーパーに及ばないものの、トルクはクーパーを超えクーパーSに迫る。実際、実用域での力強さは期待以上であり、コンパクトなボディを元気に走らせる。ディーゼル特有のガラガラ音の抑え込みも上々。ただし極低回転域での排気系のコモリ音がやや気になった。価格は同グレードのガソリン車比20万円高だが、エコカー減税や燃料代を考えればわりと簡単に元は取れる。ディーゼルは重量級のクルマに向いているというのが僕の考えだが、ミニが欲しくて、なおかつディーゼルに乗ってみたいと思っているなら注目する価値はある。

クリーン・ディーゼル・エンジン搭載モデルの大幅な拡充により、MINI全体のラインアップにおける同エンジン搭載モデルは全部で10となった。MINI Cooper D 3Doorの燃料比率は、輸入車トップクラスの23.9km/ℓ。ポスト新長期規制をクリアしており、取得税および重量税は免税、自動車税は75%減税が適用される。

BMW・ミニ クーパー D

車両本体価格:3,000,000円(MINI Cooper D 3Door、税込)
全長×全幅×全高(mm):3,835×1,725×1,430 車両重量:1,230㎏
エンジン:直列3気筒ディーゼル・ターボ 総排気量:1,496cc
最高出力:116ps/4,000rpm 最大トルク:27.5kgm/1,750~2,250rpm
JC08モード燃費:23.9㎞/ℓ 駆動方式:前輪駆動
*画像はMINI Cooper SD 3Doorです

AUDI A5 COUPE
アウディ・A5 クーペ

時間とともに染み入るデザイン

 数あるアウディのラインアップのなか、僕がいちばん心惹かれていたのがA5クーペだ。和田 智さんが手がけたエクステリアデザインは最高に美しく、最高に色気があり、最高に気品のある大人のクーペだった。性能面はともかく、デザイン面で次世代モデルが現行モデルを超えるのはちょっと難しいのではないか、とすら思っていたほどだ。

 そんななか、ポルトガルで開催される新型試乗会への招待状が届いた。当然ながら僕の興味はデザインに集中したわけだが、新型の第一印象は「まあ悪くないね」というもの。つまり、ひと目で惹きつけられるほどのインパクトは感じなかったということだ。

 セダンのA4をベースとしたクーペという基本コンセプト&フォルムはもちろん、最大の特徴だったウェーブ状のショルダーラインも引き継がれていて、そういう意味では現行モデルのデザインをぶち壊してはいない。とてもいいデザインだ。しかしその一方で、もう少し新鮮な驚きを感じさせて欲しかったなという気持ちがあり、それが素直な賞賛をためらわせた理由だろう。

 とはいえ、本当にいいデザインは時間が経つにつれジワジワと染み入ってくるもの。2日間にわたって過ごしてみた結果、僕は新型A5を大いに気に入った。生産技術の粋を集めた深く鋭利なプレスラインや、より低くなったフロントエンドなどが、A5のデザインをよりダイナミックかつモダンに見せている。試乗の途中で偶然にも現行モデルと並べてみる機会があったのだが、あれだけ気に入っていた現行モデルが古臭く見えた。これはデザイナーの大勝利を意味する。

 走りは定評のあるA4がベースだけに文句なし。とくに高速直進安定性と高速コーナーでのライントレース性は最高だ。日本導入は来春の予定。あるようで意外にない大人に似合うクーペ。ちょっとお洒落して粋に乗りこなして欲しい。

9年ぶりのモデルチェンジとなる新型は、スポーティかつエレガントさを研ぎ澄まし、優れたエアロダイナミクス性能をデザインに取り入れた。さらに軽量デザインと素材の組み合わせによって、ボディは先代モデルに比べ約60kg軽量化。本国ドイツでは5タイプのエンジンを搭載、各エンジンの最高出力範囲は大幅に引き上げられ、先代よりパワーは最大17%増、燃料消費量は約22%削減した(スペックの詳細は未定)。

文・岡崎五朗

Goro Okazaki

1966年生まれ。モータージャーナリスト。青山学院大学理工学部に在学中から執筆活動を開始し、数多くの雑誌やウェブサイト『Carview』などで活躍中。現在、テレビ神奈川にて自動車情報番組 『クルマでいこう!』に出演中。

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