F1ジャーナリスト世良耕太の知られざるF1 PLUS vol.13 マクラーレンと日本の相性

 2016年のF1開幕を間近に控えた3月9日、カルソニックカンセイはマクラーレン・ホンダと複数年にわたるオフィシャルサプライヤー契約を結んだと発表した。

 同社はラジエーターをはじめとする熱交換器のスペシャリストと言ってよく、他に内装やコンプレッサー、空調に電子、排気と自動車部品を幅広く手がけている。日産自動車の連結子会社ではあるが、国内外の主要な自動車メーカーと取り引きがあり、グローバルに活躍するサプライヤーだ。

 実は、カルソニックカンセイとマクラーレンの付き合いは今に始まったわけではない。両者の付き合いは’92年までさかのぼることができる(当時の社名はカルソニック。’00年より現社名)。’92年といえばホンダの第2期F1参戦活動の最終年にあたり、3.5L・V12エンジンを搭載したマクラーレンMP4/7を、セナとベルガーのコンビが操っていた年だ。カルソニックカンセイは以来25シーズンにわたって、マクラーレンに熱交換器を供給している。

 しかし、これまでは供給する側とされる側のドライな関係だった。複数年のオフィシャルサプライヤー契約を結んだ’16年以降は、開発の初期段階からひとつのチームになって、車体に合った高性能な熱交換器を開発していくことになる。より密接な関係になるということだ。

 熱交換器というとエンジンの付属品というイメージがあるが、F1では熱交換器の設計は車体側、すなわちチームが担当するのが慣例となっている。だから、カルソニックカンセイが直接ホンダとやりとりすることはなく、やりとりを行う相手はあくまでもマクラーレンだ。ただし、「ホンダさんとの信頼関係が向上し、量産ビジネスの拡大につながっていくことを期待している」と、森谷弘史社長は述べている。

 ところで、マクラーレンは3月8日にJVCケンウッドとのパートナーシップ延長を発表したばかりだ。ケンウッドは’91年からマクラーレンに無線システムを供給しており、両者の関係は25周年を迎える。ブレーキシステムは曙ブレーキ工業製、ホイールはエンケイ製で、部品製造はヤマザキマザック製精密機械加工機の力を借りている。日本の企業、日本の技術との関係が深い。その理由をマクラーレン・レーシングのJ・クーパー氏は次のように語った。

 「日本の技術は素晴らしいが、理由はそれだけではない。日本人の人間性はイギリス人と合っているようで、だから日本人と一緒に仕事をするのが楽しいんだ。そうでなければ、7社もの日本企業と一緒に仕事をすることにはならなかっただろう」

 勝つために戦っているのだから、最優先されるのは技術力だ。だが、それだけでマクラーレンと日本の企業が親密になったわけではない。お互いの人間性、あるいは企業姿勢を認め合っているからこそ、高みを目指す開発が継続できるのだ。

2種類のエネルギー回生システムを組み合わせたパワーユニットを搭載する現在のF1マシンは、7種類もの熱交換器を必要とする。それらすべてをカルソニックカンセイが供給しているわけではない。どれを供給するのかは機密保持の観点から明らかにされていないが、基幹部品のひとつであるエンジン用ラジエターを受け持っていることは間違いなさそう。また、アシックスがマクラーレンにシューズを供給している。

Kota Sera

ライター&エディター。レースだけでなく、テクノロジー、マーケティング、旅の視点でF1を観察。技術と開発に携わるエンジニアに着目し、モータースポーツとクルマも俯瞰する。

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