アルファロメオの変革

 年明け早々、僕はアルファ・ロメオ4Cスパイダーを走らせながら、これからしばらくが最も楽しみなブランドのひとつはコレかもな、なんて考えていた。

 自動車メーカーも新陳代謝みたいなことを繰り返しながら次また次と時代を作っていくようなところがあって、今、アルファ・ロメオはちょうどその転機の真っ最中にあるからだ。

 具体的な計画が表面化したのは、2014年5月のこと。2018年までの具体的なビジネスプランが発表され、それには2015年に現行ジュリエッタのひとつ上となるミディアムクラスを1機種、2016~2018年の間にジュリエッタと同じコンパクトクラスを2機種、ミディアムクラスをもう1機種、フルサイズを1機種、SUV系を2機種、そしてスポーツカーと思われるスペシャルティを1機種、それぞれデビューさせる、とあった。ミトのあるサブコンパクトのクラスには後継となるモデルの予定がなく、2008年デビューゆえそう遠からず生産が中止になるミトを最後に、〝小さなアルファ・ロメオ〟はしばらくの間ラインアップ落ちするだろう、ということも示唆されていた。

 それにも増して興味深かったのは、アルファ・ロメオが自分達の近年の流れを振り返り、失策と考えられる部分を明確にしつつ、「アルファは革新的なエンジンを積んでいなければダメ」「前後重量配分は50対50じゃなければならない」「クラスで一番のパワーウエイトレシオを持っていなければならない」といった具合に、今後のプロダクションモデルの方向性をハッキリ示していたことだった。

ジュリア
新しいモデル計画の第1弾として2015年6月に発表された、新型ジュリア。現時点で具体的なアナウンスがなされてるのは最高性能ヴァージョンの“クワドリフォリオ”のみだが、このまま進めばクラス最速の座は確実。それ以外のグレードの発表はこの3月と予想されていて、どちらにも期待がかかる。発売は今年の半ば、か──?

 その改革案が具体的なカタチとなって披露されたのは、昨年6月24日。アルファ・ロメオが創立105周年を迎えた日のことだった。〝ジュリア〟という、1960~’70年代の名車の名前が冠されたスポーツサルーンの、それもハイパフォーマンスグレードが発表されたのだ。フェラーリ由来の2.9リッターV6ツインターボを積み、パワーは510ps。トランスミッションは6速MTとデュアルクラッチ式。駆動方式はFRと4WD。前後重量配分は50:50。パワーウエイトレシオは3kg/ps以下。0–100㎞/h加速は3.9秒。ファンを唸らせる要素は、まだまだ並ぶ。それを裏付けるように、最高速度はテスト中に321㎞/hをマークした、ニュルブルクリンク北コースのタイムアタックでBMW M4より10秒近く速い7分43秒を叩き出した、とヨーロッパから噂が流れてくる。最終的には秋のフランクフルトショーで最高速度が307㎞/hに落ち着いたこと、逆にニュルのラップタイムは7分39秒と大幅に短縮されていたことがアナウンスされた。衝撃、である。アルファのファンにしてみれば、アンチに対して〝もうカッコと雰囲気だけのクルマだなんていわせない〟なのである。しかもアルファ・ロメオ・ブランドを抱するFCAのセルジオ・マルキオンネCEOが、昨年末から「アルファ・ロメオをF1に復帰させることを考えてる」なんて発言を何度もしちゃうものだから、もう盛り上がる盛り上がる。2014年5月に何があったか知らなくても、アルファ・ロメオが変化しようとしてることをクルマ好き達がどことなく意識し始めてるのが今。しかもまだまだ第一段階みたいなものなのだ。

4Cスパイダー
現行ラインアップ唯一の後輪駆動、4Cクーペ&スパイダー。本文にも記したように、その走りの質はアルファ・ロメオが目指す改革案にすで合致しているレベルにある。が、ジュリエッタやミトといった他の現行モデルも、例えばハンドリングなどのレベルは、実は素晴らしく高い。アルファはさらなる高みを目指しているのだろう。

 計画発表の前年にデビューした4Cクーペと翌年1月に発表されたこの4Cスパイダーは、いうなれば過渡期のモデル。でも、すでに改革の条件を満たしてるようなものだ。数年後にはこのスペシャルなクラスにもニューモデルが予定されてる。4Cでこれだけ速くてこれだけ楽しいのに、いったいどこまでいっちゃうんだ……?

 まずは3月のジュネーヴショーでジュリアの全ラインアップが明らかになることが予想されていて、次はジュリアのワゴンか? 最初のSUVか? と、噂は賑やか。しばらくの間、アルファ・ロメオの動きはちょっと見逃せない。

文・嶋田智之

初代ジュリア
初代ジュリアは1962年に登場。最初は4ドアセダンからスタートしたが、翌年にはシンプルかつ美しい姿のクーペもラインアップされ、1966年にはこのジュリアをベースにした“スパイダー”も追加された。セダンやクーペはモータースポーツでも大活躍を収めた。そんなところから新型ジュリアにもモデル展開を期待するファンが多い。

ティーポ33
現在の4Cのスタイリングデザインに大きな影響を与えた、ティーポ33/2ストラダーレ。スポーツカーレースや公道レースで活躍したティーポ33/2のストリートヴァージョンとして、1967年から1971年の間に18台のみが製作された。性能もさることながら、そのスタイリングは現在も“世界一美しいスポーツカー”と評されることが多い。

初代スパイダー
アルファは古くからそう絶やすことなくオープンスポーツを作り続けているブランド。最も有名なのは映画『卒業』で使われた“デュエット”に端を発する、その名も“スパイダー”だろう。その気になって攻めれば速く楽しく、ふたりでクルージングすれば艶やかで心地好く。その伝統は最新の4Cスパイダーにも受け継がれている。

F1
F1グランプリが世界選手権として初めて開催されたのは1950年。アルファは7戦6勝という圧倒的な強さでシリーズを制覇し、続く1951年も8戦4勝をおさめ、連覇している。写真は1950年のもので、マシンはティーポ158。その後もエンジン供給のみしていた年も含めれば20年以上もF1に関わってきた歴史を持つ。復帰に期待大、である。

定期購読はFujisanで