F1ジャーナリスト世良耕太の知られざるF1 PLUS vol.05 初シーズン終了

 フォーミュラE(以下FE)の最初のシーズンが終わった。FEが画期的だったのは、電気自動車のレースを本格的に行ったことだ。

 FE登場以前のレースは、化石燃料でエンジンを動かし、爆音を発しながらサーキットを駆け回るのが普通だった。

 FEはF1に似たスピード感あふれる格好をしているが、エンジンのかわりにモーターを積む。モーターを動かすのはガソリンのような化石燃料ではなく、電気エネルギーだ。その電気エネルギーはバッテリーに蓄える。FEは独特の電磁音は響かせるものの、観客席にいる人達の会話の邪魔をするほどではない。それに、排ガスを出さない。だから、市街地での開催を可能にした。

 FEには公道レースのイメージがつきまとうが、実際は公道に限定しているわけではなく、アクセスに便利な市街地での開催にこだわっているのである。ロンドン戦は公園内の周回路をコースに仕立てたし、ベルリン戦は飛行場の滑走路にコースを設営して行った。公道に限定したイベントではないことが分かれば、開催を誘致しようと手を挙げる都市も増えてくるだろう。

 2014-15年のシーズン1は性能差のない共通スペックの車両を用いたこと。さらに、経験豊富で実力のあるドライバーが多く参戦したことが、展開をエキサイティングにした。シーズン1最後のイベントは6月27・28日にロンドンで開催された。第10戦、第11戦のダブルヘッダーで、最初のレースは、トヨタで2014年のWEC年間タイトルを獲得したS・ブエミが優勝。この結果、タイトル争いでは、F1でルノー時代にアロンソとコンビを組んでいたN・ピケJr.に肉薄することになった。

 ピケJr.が予選で下位に沈んだため、最終戦を上位でスタートしたブエミがそのまま走り切れば、逆転タイトルを獲得する流れだった。だが、レース中盤にブエミは単独スピンを喫して順位を落とすと、一方のピケJr.は幅の狭いコースながらも大きく順位を上げ、わずか1点差でしのいでFEの初代チャンピオンに輝いた。絶対的なスピードではF1と比較にならないが、FEは予選順位からレース結果が想像できることはなく、チェッカードフラッグが振られる瞬間まで結末が読めない。それがファンを引き付ける要因のひとつだろう。

 2015-16年のシーズン2は、10月17日の北京戦で幕を開ける。発表された暫定カレンダーには、マイアミに替わってパリ(4月23日)が加わった。世界有数の都市が加わったことは、継続的な発展を目指すFEにとって心強い知らせに違いない。マシンの見た目は変わらないが、中身は進化する。シーズン1は共通スペックだったが、シーズン2ではパワートレーン(モーター/インバーター/ギヤボックス)の独自開発が認められることになった。この変化がレースとチャンピオンシップの展開にどう影響していくのかにも注目だ。

写真はロンドン戦を走るピケJr.選手のマシン。F1は13インチの小径ホイールを履くが、FEは量産車との関連性を重視して18インチタイヤ&ホイールを採用。世界の主要モータースポーツではドライの路面とウエットの路面でタイヤを履き替えるのが一般的だが、FEは晴雨兼用の溝付きタイヤ(ミシュランの1社供給)で走る。これも「市販車がそうだから」という理由で決められた。最高速は225km/hだが、狭く、スムーズさに欠ける公道を走るにしてはチャレンジングなスピードだ。

Kota Sera

ライター&エディター。レースだけでなく、テクノロジー、マーケティング、旅の視点でF1を観察。技術と開発に携わるエンジニアに着目し、モータースポーツとクルマも俯瞰する。

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