岡崎五朗のクルマでいきたい vol.65 徳大寺有恒という存在

 徳大寺有恒さんに初めて会ったのは1988年。とある雑誌の対談連載で司会進行と対談原稿の作成を担当したのがきっかけだった。自動車本の中で唯一のベストセラーになった「間違いだらけのクルマ選び」の著者としてすでに有名だった徳大寺さんだが、その風貌や独特の語り口からして超個性的な人だった。

 そこにいるだけで独特の空気感が生まれた。たとえ自動車メーカーの社長をゲストに招いても徳大寺ワールドが薄まることなど決してなかった。

 けれど、この人は本当にスゴい人だなと思ったのは、対談の録音テープを聞きながら原稿にまとめていくときだった。普通、話し言葉は不明確だったり、前後の辻褄が合っていなかったりするもので、そのまま文字にしても原稿としては使い物にならない。けれど徳大寺さんは違った。話し言葉をそのまま文字に起こすだけで立派な原稿になったのだ。それも、文学的な香りすら漂わせる名文に。いろいろな対談のまとめやインタビュー原稿を書いてきたが、話し言葉がそのまま名文になってしまうのは後にも先にも徳大寺さんだけだ。しかもその言葉はどれも示唆に富み、いま読み返すと予言者の言葉を聞いているような気分になる。

 一大センセーションを巻き起こした記念すべき「76年版間違いだらけのクルマ選び」のまえがきに、次のような一文がある。

 『メーカーはクルマに対するユーザーの意識が低いのを幸い、低俗で理想にほど遠いクルマをつくり続けている。(中略)筆者は日本のクルマを愛するがゆえに、国産車の現状に警笛を打ち鳴らすのである』

 間違いだらけ以前の自動車ジャーナリズムには辛らつな批判が歓迎されない雰囲気があったと聞く。もし徳大寺さんがいなかったら、いまこうして僕が自由に原稿を書いていられたかどうか。そう考えると偉大さが身に染みる。

 いつだったか「五朗、クルマってやつはおまえが思っている以上に面白いものだぞ」と声をかけてくれたことがある。きっとどこかで僕が書いたつまらない原稿を読んだのだろう。愛情に裏打ちされた批判精神を常に忘れず、クルマをもっと面白くしていく。徳大寺さんの遺志を、今度は僕らが引き継いでいく番だ。心よりご冥福をお祈りします。


スバル レガシィB4&アウトバック

スバルのシンボルとしてあり続ける

 25年の歳月はレガシィの有り様を大きく変えた。6代目レガシィに用意されたのはセダンの「B4」とクロスオーバーSUVの「アウトバック」のみ。日本を代表するステーションワゴンとして長く君臨してきた「ツーリングワゴン」はついにカタログから落ちた。

 背景にあるのは北米マーケットの事情だ。北米ではワゴン人気が低迷し、ツーリングワゴンを発売しても売れる見込みが立たない。ならばレガシィはB4とアウトバックの2モデルに絞り、ワゴン人気の高い日本用にひとまわり小さいレヴォーグを投入する。これがスバルの戦略だ。

 事実、B4もアウトバックも先代よりさらにボディを大型化し、北米市場重視の姿勢を強めてきた。B4の場合、全長は50㎜長く、全幅は60㎜も拡がった。興味深いのは、サイズ拡大をデザインへと優先的に配分している点だ。グッと張り出したフェンダーや立体感を強めたボディサイドのプレスラインは新型レガシィにいきいきとした躍動感と上質感を与えた。レヴォーグやWRXと比べると間違いなく1クラス上のクルマに見えるし、室内、とくに肘や肩周りの余裕も大きい。その一方で、狭い道でのすれ違いで効いてくるミラーtoミラーは18㎜しか増えていないから、狭い道での取り回しは意外に悪くない。

 走りはとてもスバルらしい。3.6ℓ水平対向6気筒がカタログから落ちた(日本ではほとんど売れなかったという)のは残念だが、パーツの約80%を新設計した2.5ℓ水平対向4気筒がなかなかいい味を出している。最高出力はレヴォーグの1.6ℓターボとほぼ同じだが、静かだし、下から上まで素直なトルク特性をもっているため、リラックスした気分で運転していられる。足回りもレヴォーグやWRXよりソフトな味付けだが、だからといって決して頼りない印象はない。B4、アウトバックともに、スバルらしい安心感を上質感とともに味わえるモデルとして要注目だ。

B4、OUTBACK共に、スバル伝統の水平対向4気筒エンジンを搭載。ブラック塗装+切削光輝加工を施した18インチホイールや、メーター周りのLEDリング照明、ステアリングホイールやシフトノブに高触感の本革巻を採用するなど、差別化を図ることでスポーティーかつラグジュアリー感を演出したLimitedモデルも用意。

SUBARU LEGACY OUTBACK

車両本体価格:¥3,132,000 (LEGACY OUTBACK 税込)
全長×全幅×全高(mm):4,815×1,840×1,605
車両重量:1,570kg 定員:5人
エンジン:水平対向4気筒 2.5ℓ DOHC 16バルブ AVCS
総排気量:2,498cc 最高出力:129kW(175ps)/5,800rpm
最大トルク:235Nm(24.0kgm)/4,000rpm
JC08モード燃費:14.6km/ℓ 駆動方式:AWD

SUBARU LEGACY B4

車両本体価格:¥2,862,000 (LEGACY B4税込)
全長×全幅×全高(mm):4,795×1840×1500
車両重量:1,530kg 定員:5人
エンジン:水平対向4気筒 2.5ℓ DOHC 16バルブ AVCS
総排気量:2,498cc 最高出力:129kW(175ps)/5,800rpm
最大トルク:235Nm(24.0kgm)/4,000rpm
JC08モード燃費:14.8km/ℓ 駆動方式:AWD

レクサス RC

レクサスの真打ち登場

 ほとんどこのままのカタチで売りますよ。ちょうど1年前の東京モーターショーに参考出品車として展示されたレクサスRC。そのアグレッシブなデザインに驚いている報道陣に向け、レクサス関係者が伝えたのが冒頭のコメントだ。そしてその約束は実行された。先日発売されたRC。これでもか! というほど大きなスピンドルグリルは、決してエレガントではないが、存在感の強さは圧倒的だ。

 かつてレクサスは日本的な奥ゆかしさ、端正なたたずまいをアピールポイントにしていた。しかし数年前から、後発ブランドがプレミアムクラスで存在感を示すのに控えめであることはマイナスだと考えるようになった。とにかくプレミアムカーは目立ってなんぼ。スピンドルグリルの展開に始まり、NX、そしてこのRCと、自らの存在を積極的にアピールするのがレクサスの方針だ。「ちょっとやり過ぎなのでは?」「好きじゃない」というネガティブな意見が出るのは重々承知の上。それでもビジュアルインパクトを最大化することをレクサスは選択した。ましてやRCは実用性よりもエモーションで重視される2ドアクーペ。誰からも嫌われない無難なデザインよりも、一握りでもいいから「大好き」と言ってくれる人がいればそれでいい。そんな突き抜け感がRCの魅力だ。

 グレードは2.5ℓ直4ハイブリッドの300h、3.5ℓV6の350、5ℓV8のRCF。お洒落で快適なクーペが欲しいなら300h、走りも楽しみたいなら350Fスポーツ、サーキットに持ち込んでガンガン走りたいならFということになる。それぞれキャラクターは異なるが、どれもユーザー像にピタリとフィットする乗り味に仕上がっているのはさすが。ボディ剛性を徹底的に高めることで基本性能を鍛え上げたことがすべてのグレードに効いている。さほど数が売れる車種ではないけれど、RCの登場によってレクサスブランドの存在感は間違いなく高まった。

RCは昨年11月の東京モーターショーでワールドプレミアされた。今後レクサスのイメージリーダーとなるべく、ひと足早く2014年シーズンのスーパーGT 500クラスに参戦、満を持しての発売となる。IS F以降受け継がれてきた”F”の称号は、富士スピードウェイのイニシャルに由来している。

LEXUS RC

車両本体価格:¥5,960,000 (RC350 税込)
全長×全幅×全高(mm):4,695×1,840×1,395
車両重量:1,690kg 定員:4人
エンジン:V型6気筒DOHC 総排気量:3,456cc
最高出力:234kW(318ps)/6,400rpm
最大トルク:380Nm(38.7kgm)/4,800rpm
JC08モード燃費:9.8km/ℓ 駆動方式:後輪駆動

トヨタ ランドクルーザー70

世界から愛され続ける“ナナマル ランクル”

 トヨタが世界に誇るモデルがランドクルーザーだ。特集の内容と被るが、日本車の中で最高に愛され、信頼され、支持されているブランドだと思う。とりわけ期間限定で日本での販売が復活したランクル70シリーズは、2004年に日本での販売を終了した後も世界中で需要が衰えず、発売から30年経ったいまなお「他のクルマではダメ」と言われるほどの根強い人気を誇っている。

 30年前のクルマといえばほとんどクラシックカーだ。実際、角張ったデザインにモダンな香りは一切ないし、インパネのデザインもかなり古臭い。挙げ句の果てにトランスミッションはMTのみ。いまどきこんなプリミティブなクルマが存在し続けているのが不思議に思えるほどだが、そこにはちゃんとした理由がある。日本に住んでいるとピンとこないが、オーストラリア、中東、アフリカといった地域には、故障やスタックが命に関わる場所がたくさんあり、そういった厳しい環境下でのサバイバル性能において70はぶっちぎりの世界一なのだという。強固なラダーフレーム構造、4輪リジッド式サスペンション、前後ロック可能なデファレンシャルギア、悪路でものをいう副変速機、タフなMT、容量130ℓの大容量燃料タンク、さらに言うなら、30年間に渡ってモデルチェンジをしていないのも、辺境地での部品の入手しやすさにつながるため歓迎されているそうだ。好みや流行ではなく、確実に目的地に着き、命を落とすことなく家に戻れることを重視した結果選ばれる。クルマにとってこれ以上の栄誉はない。

 もちろん、そんなクルマを日本で乗ることの意味を問うこともできる。しかしそれなら高性能スポーツカーだって同じこと。70が内包する実力に僕は素直に敬意を表するし、こういうクルマを生み、育ててきたトヨタにも同様の敬意を表したい。当初の販売目標台数月間200台に対し、3ヶ月で5000台以上の受注が殺到。トヨタは増産体制に入った。

今回復刻したランドクルーザー70のボディタイプは、優れた居住性を実現する「バン」に加え、最大600kgの貨物を積載できるデッキスペースを備えた「ピックアップ」を設定。日本国内のピックアップモデルとしては、初のダブルキャブ仕様となる。尚、2014年11月末の時点で、納車までの納期が3ヶ月以上かかり、TOYOTAは増産体制に入った。

TOYOTA LAND CRUISER70

車両本体価格:¥3,600,000 (バン 税込)
全長×全幅×全高(mm):4,810×1,870×1,920
車両重量:2,120kg
定員:5人(リヤシートを折り畳んで荷室スペースとして使用する場合、乗車定員は2名となります)
エンジン:V型6気筒DOHC 総排気量:3,955cc
最高出力:170kW(231ps)/5,200rpm
最大トルク:360Nm(36.7kgm)/3,800rpm
JC08モード燃費:6.6km/ℓ
駆動方式:4輪駆動(パートタイム4WDシステム

ニッサン ノートニスモS

レース屋の作ったストリートホットハッチ

 正直なところ、僕のノートに対する評価は低い。見た目はカッコいいし、室内も広いし、価格も安いのだが、如何せん乗ったフィーリングがよくない。全体に薄っぺらい感じが漂って、乗り心地も渋い。サスペンションが滑らかに動かないから段差では突き上げが大きく、にもかかわらずコーナーではグラリとロールする。売りの1.2ℓスーパーチャージャーエンジンにしても、肝心なところで過給をしないためトルク感に乏しく、かといってアクセルを深く踏み込むと今度は燃費が急激に悪化する。典型的な「安くて室内が広くてカタログ燃費がいいだけのクルマ」なのだ。

 そんなノートにニスモシリーズが加わった。試乗したのは専用チューンした1.6ℓエンジンに5速MTを組み合わせたノート ニスモS。1.2ℓスーパーチャージャー+CVT仕様のノート・ニスモもあるが、どうせ買うなら絶対にニスモSだ。とにかく走りが素晴らしい。合計6ヵ所の補強材が取り付けられたボディが生みだすしっかり感はベースモデルとはまるで別物。コストより性能を重視したダンパーを強固なボディに取り付けたため足もしなやかに動く動く! 決してソフトな足ではない。むしろ引き締まっている。タイヤもハイグリップタイプだ。しかし乗り心地はベースモデルより断然上質。ステアリングを切ったときのボディのしゃっきり感、コーナーでの接地感も別次元である。

 気持ちのいいサウンドを奏でながらトップエンドまで鋭く回りきるエンジンもニスモSのチャームポイントだ。低めのギア比をもつ5速MTを駆使してアップテンポな走りをすれば、クルマの運転ってこんなに楽しいもんだったんだなと再認識できるに違いない。

 価格は224万円。内容を考えればかなりお買い得だが、個人的にはもう少し控えめな外観のモデルが欲しい。というか、この走り味の半分でもいいからノーマルモデルに反映できないものだろうか?

かつては全てのメーカーから「ホットハッチ」と呼ばれるスポーティーなエンジンを搭載したモデルをラインアップしていたことを考えれば、現在の日本のホットハッチ市場は寂しい状況である。そんな中、長年レースに携わってきたニスモが本気でつくったノートNISMO Sは、レーシーでニスモらしいホットハッチである。

NISSAN NOTE NISMO S

車両本体価格:¥2,244,240 (NISMO S 税込)
全長×全幅×全高(mm):4,100×1,525×1,695
車両重量:1,080kg 定員:5人
エンジン:DOHC水冷直列4気筒 総排気量:1,597cc
最高出力:103kW(140ps)/6,400rpm
最大トルク:163Nm(16.6kgm)/4,800rpm
JC08モード燃費:- 駆動方式:前輪駆動

文・岡崎五朗

Goro Okazaki

1966年生まれ。モータージャーナリスト。青山学院大学理工学部に在学中から執筆活動を開始し、数多くの雑誌やウェブサイト『Carview』などで活躍中。現在、テレビ神奈川にて自動車情報番組 『クルマでいこう!』に出演中。

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